第149話 俺の知らない世界

 詩織ちゃんの天然ぶり。

 それは露天風呂でも遺憾なく発揮されていた。


 さっきは配管に沿って色々歩いていた。

 今は浄水装置が組込まれた一服用デッキの前でしゃがみ込んでいる。

 全裸でだ。


「修先輩、ここの2層のフィルターは何なのですか」

「大きいゴミを除く物理フィルターと有機物を除く魔法膜フィルター。どっちも週に1度200リットル程度の水で流して残留物と汚れを流してる」


 俺は視線を動かしもせずに答える。


「成程、水を汚す成分の殆どは確かに有機物なのです。蓄積された無機物も清掃の際に使う水を補充することによって問題ない程度の濃度に収まるという訳なのですか」


 理解が早いのはいい。

 でももう少し自分がどう見えるかは意識して欲しい。


 詩織ちゃんは身体も小さいが発育も遅め。

 目に入るとある種罪悪感を感じてしまう。

 しかも所々で機構を調査するためかとんでもない格好をするし。


 ちなみに今日もいつもの面々がいる場所は同じ。

 春休みとの違いは風遊美さんが寮に戻ったこと。

 おかげで俺が気兼ねなくぬる湯で身体を伸ばせる。

 その分余分な目の毒が動き回っているが。


「成程、ひととおり理解したのです」


 詩織ちゃんはそう言うと、ぬる湯の俺の隣へと入ってきた。

 ああ、折角の俺の安寧が。


「あと私に必要なのは実際の工作力なのです。ある程度色々作って鍛えないと。魔法工学科で出た課題をやってみるのもいいのです」


「補助魔法科の方の課題は大丈夫なのか」


「今のところは補助魔法科では特異な課題は出ていないのです。普通科高校と同じ程度の内容なのです」


「魔法工学科の課題って、また空飛ぶ機械の概念設計か」


 詩織ちゃんは意外そうな顔をして俺の方を見る。

「あれ、修先輩も知っているのですか」


「毎年出ているんだよ。香緒里ちゃんの代も、俺の代も、その前も」


「よし!なら負けない位面白いのを創ってみるのです」


 そう言ってガッツポーズを取るのは止めてくれ。

 視界の端に水面上に出たトップが見えてしまったぞ。


「あとは全然関係ないけれど、このお風呂ってエロいのです」


 こともあろうに俺の横で、詩織ちゃんは危険な発言をする。


「まあ風呂だから裸なのはしょうがないだろ」


「裸なのは問題ないです。問題なのはこの水に含まれる不純物なのです」


 何を言いたいのだろう。


「有機物、つまり排泄物とか分泌物のほとんどの成分は有機物なのでフィルターでクリアされます。でもナトリウムとかカリウムとか無機物はそのままなのです。

 つまりこのお湯の中には修先輩や香緒里先輩達由来のカリウムとかナトリウムとかがイオン状態で浮遊しているのです。そう思うと何かエロいです」


 うーん、この子の思考はかなり特殊なようだ。

 問題ないと香緒里ちゃんが言った意味をしみじみ納得する。


「わかりませんかねえ。こんなにエロいと思うのですが」


「何かエロい話でもあるのかい」

 あ、大魔王がやって来た。


「聞いて下さい奈津希先輩。修先輩に、このお湯の中には先輩達由来の無機イオンが浮遊していてエロいって話したんですけれど、全然理解してくれないんですよ」


「うーん、有機物ならエロいかもしれないけれどなあ。せめて尿酸くらいなら」


「炭素を含んでいるかで分けていますから尿酸はフィルタを通れません」


「有機物でなくて無機物のイオンというところが奥ゆかしくてエロいんですよ」


「強いて言えば硝酸イオンくらいならエロいかもしれないけどな。あれならエロいところ通っている可能性は大だし」


「きゃああ、硝酸イオンエロすぎです。奈津希先輩エッチなのです!」


 俺には訳がわからない。

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