第133話 小話1終話 俺にはその後の記憶がない

「でも気楽でいいです。私が前いた場所はこんなに気軽で落ち着ける場所じゃありませんでしたから。日本に来て正解でした」


 香緒里ちゃんはちょっと首を傾げる。

「うーん、魔法特区ここは特殊ですから。

 日本本土の私の住んでいた処ですと全く気を使わないって訳では無いです。由香里姉は特別視されるのが嫌でここへ逃げたようなものですし」


「それでも私がいた処よりはましです。私も何度も襲われかけましたから」


 成程、奈津希さんも言っていたが本当に違うんだな、と俺は感じる。

 魔法特区ここに世界の魔法使いの半分以上が集まり、かつ増え続けているのはそれなりの理由があるようだ。

 たかが高専生1人1人に対してさえも、世界からの圧力が違う。


「修君は知っていますよね。腕を治す時に記憶を開放した筈です」


 あ、そう言えばそんな事もあったな


「ごめん、あの時は出来るだけ風遊美さんの記憶に触れないようにしたから。実際俺の魔法だけで何とか繋げることが出来たし」


 風遊美さんがふっと息をついた。


「あの時は色々恥ずかしい事を含めて、それでも見てもらって良いと思ったから、一世一代の決心をして見ていいと言ったのですけれど」


「まあ、修兄ですからそんなものです」

 香緒里ちゃんが微妙に俺に失礼なような慰め方をする。


「その意味はよく分かるような気がします」


「修兄は世間とか一般常識から浮いた存在ですから。それに救われる事も多いんですけれど」

「それはわかります。私もそうでしたから」


 俺ははたして褒められているのかけなされているのか。


「大体今だってクラスでは浮いているんじゃないですか。修兄からクラスの話を聞いたことが無いのですが」


「俺だってクラスに友達くらいいるぞ。等々力とか上野毛とか」


「どちらも優秀だけれど変人ですね」

 風遊美さんにバッサリと斬られる。


「上野毛君は人造人間アンドロイドに萌える女装子ですし等々力君は体内埋込型魔法具で万能魔法使いを目指すボディビルダーですよね」


 よく知っているようだ。

 そう言えば学生会会長を引き受ける前に俺の事を調べたと言っていたっけ。


「確かに見た目はどっちも変わっているけどさ、少なくとも魔法工学的にはうちのクラスでもトップクラスだし性格的にも良い奴だぜ、どっちも」


「それも知っています。それでも……」

「類友ですよね」

 あ、香緒里ちゃんにもばっさり斬られた。


「まあ、そういう常識とか見た目を全く気にしない、というかわかっているかどうかさえ疑問なところに救われることもあるのですけれど」


「それは認めるのです」


 やっぱり褒められているのかけなされているのか微妙だ。


「ところで特にこの1年、修兄のまわりに女の子が増えていて心配なんですけれど」

 突然香緒里ちゃんが危険そうな話題を出す。


「私もそのひとりですけれど、もっと増えるかもしれないですよ。4月には新一年生が入って来ますから。特に今まで魔法を使えることで差別を受けたりした子なんかだったら、あっさりころりと行くんじゃないでしょうか」


 何か風遊美さんにも不味い事を言われているような。


「昔は私と由香里姉の独占物だったのに、困ったのです」


「最近は奈津希も甲斐甲斐しくアピールしているようですし。料理も作れるしこんなにお役に立ちますよって。今ひとつ通じていないような気がするのが見ていて可哀想ですけれど」


「かと言って既成事実作ろうとしても、固いですしね」


 だんだん話がやばい方向へ行っている。

 俺はそーっと動いてふすまを開けて逃げようとした。

 が、ふすまが動かない。


「逃げられる訳無いじゃないですか」

 香緒里ちゃんに見つかった。


「これは私の夢ですから。私の意志なくして逃げるのは無理なんです」

「香緒里さん、ナイスです」


 俺は2人に掴まれ布団の上に押し倒される。


「風遊美さんは先輩ですしライバルですけれど気が合うような気がするのです。」

「嬉しいですね。私もそう思うのです」


 俺を布団の上に押し付けたまま2人は頷き合う。


「なら今だけは共同戦線を張りませんですか。夢の中だから証拠は残らないのです」

「いいですね。それではご一緒に」


「いただきまーす」

 2人が迫ってきた。

 アッー!

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