第132話 小話1の7 女子会会話で俺地蔵

 あの雑草の生い茂った公園。


 ただいつもなら出て来る香緒里ちゃんはいない。

 もう先に行っているのだろうか。

 そして風遊美さんはこの夢の中に入れたのだろうか。


 あたりには誰もいないし誰の気配もない。

 だから俺は背の高さほどの雑草の中を1人で進む。

 そしてあのトンネルの中へ。


 トンネルの中には既に先客の気配がした。

 1人ではない。

 更に進むといつもの場所に2人の姿が見える。


 一人は香緒里ちゃんの小学生位の状態。

 もう一人は風遊美さんだろう。

 同じ位の年令の少女になっている。


「……確かに観察力は凄いけれど、その分常人なら気づく所に気づかない事も多いですしね」

「何となくそれはわかります。常人と視点が違うというか」

 何やら話し込んでいるようだ。


「あ、修兄」

 香緒里ちゃんが俺に気づいた。


「何話しているんだ」

「情報交換です」

「修兄のね。春休み私達が帰ってくるまでの話とか昔の修兄の話とか」


 うーむ、いつもと展開が違う。

 いつもなら俺中心に話が進むのだが今日は女子会みたいになっている。

 と、風遊美さんが俺の方を見て、そして香緒里ちゃんに向き直る。


「修君も合流しましたし、少し舞台を変えませんか。実は……」


 風遊美さんが何やら香緒里ちゃんに耳打ちする。

「あ、それはいいシチュエーションかもです」

 香緒里ちゃんがちょっと悪めの笑顔を浮かべた。


 ふっと辺りが揺れて景色が変わる。

 今度の場所は八畳くらいの和室。

 布団が並んで敷き詰めてある。


「そう、これですこれです」

 風遊美さんは笑顔を浮かべる。

 いつの間にか2人共本来と同じ年格好に戻っていて、かつ服装が安っぽい浴衣になっていた。


「日本の漫画やアニメに出てくる修学旅行の夜ってこんな感じですよね。憧れていたのです」

 と風遊美さん。


 日本の漫画やアニメに出てくるって、わざわざ日本のってつけるという事は、ひょっとして。

「風遊美さんも外国出身だったの?」

 俺が聞いたところ、香緒里ちゃんに呆れた目で見られた。


「髪の色も目の色も肌の色も、どう見ても典型的な日本人には見えないと思いますけれど」


 あ、確かに言われてみればそうだな。

 そんな俺を見て風遊美さんが微笑む。


「修君はこういう人ですから。私の色付きコンタクトレンズに気づいた癖に、そういう所まで考えないんです。まあ気にしていないって事なんでしょうけれど」


「それも場合によってだと思うのです。例えば私、正月休みでお気に入りの美容室に行って髪型変えてきたのですが、全然気づいてくれませんでした」


「気づいていたぞ」

 俺は反論する。

「手間の掛かりそうな髪型になったな、と思った記憶がある」


「これですから」

 香緒里ちゃんがため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る