第128話 小話1の3 調理任せた俺無能

 5分位して、香緒里ちゃんは何とか魚を引き上げた。

 鈴懸台先輩が例の巨大なタモ網で掬い取る。


 赤い大きい魚だ。

 ヒレの先が黄色くて、そして胴体に小さい白い斑点がある。

 何となく毒キノコを思わせる色だ。


「月見野先輩がファイト中なので、風遊美さんチェックをお願いします」

「セーフね」

「バラハタだ。沖縄では高級魚。築地だとシガテラ毒の関係で取扱禁止だけどね」


 有毒っぽい色の魚は3年生2人にそう判定を下され、船中央の船庫へ仕舞われる。

 そして月見野先輩はまだ巨大魚と戦闘中。


「何ならさっさととどめさしましょうか」

「大丈夫ですわ。もう少し」


 月見野先輩は粘る。

 見た限りでは少しずつではあるが寄せてきているようだ。


 そして更に10分後、銀色の巨体が浮いてきた。

 すかさず鈴懸台先輩がタモで掬う。


「ちょっと待て。これ上げるとタモが壊れそうだぞ」

 網の枠はともかく、カーテンを流用した網部分が破れそうだ。

 香緒里ちゃんが魔法を発動させる。

 若干重さを低減された巨大魚は船の中へと転がり込んだ。


「毒は無いですわ。カンパチですわね」

 と月見野先輩。

 口調こそ冷静だが肩ではあはあ息をしている。


「残念だけど本日の漁は終了だね」

 との奈津希さんの言葉に全員が同意したので、俺は船をターンさせた。

 ぎりぎりまで海上を走ってから一気に高度を上げ、陸へ。


 学校上空を通り越し、象頭山の手前の高いマンションの屋上へと着地する。

 ちなみにこの船には着地用の脚もタイヤも付けてある。

 基本的に海に浮かべる事は無いから。


 魔法で外から窓鍵を操作して窓を開ける。

 巨大魚解体場所の風呂場まで全部の扉を開ける。

 鈴懸台先輩と奈津希さんがそれぞれ大きい魚を風呂場へと運び込んだ。

 すると、風遊美さんが赤い方の魚を持って台所へ。


「この前奈津希がやっているのを見て方法は憶えました。5枚下ろしにすればいいですか」

「それで頼む。皮は剥かなくていい、湯引きにするから。あらは毒がなければ洗ってボールに入れておいてくれ」

 風呂場から奈津希さんの声。


 香緒里ちゃんは風遊美さんの隙を狙ってご飯を研いで炊飯器にセットする。

 そして俺その他無能組は邪魔にならないよう、リビングで出来上がるのをひたすら待つ。

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