第127話 小話1の2 今度は船で釣行だ

 もう再試験以外の授業は残っていない。

 なので試験を一発クリアした俺達は今季の授業は終わり。

 お陰で船の改造が捗る。

 浮力調整用の重りも工房の資材で何とかなった。


 手間取ったのは船の構造の変更だ。

 船の構造物は大体が重力で船体に載っている状態。

 なので浮力機構を内蔵してかつ船体に固定するのが一番大変だった。

 逆にそれさえ上手くいけば、所詮今まで作った空飛ぶシリーズの延長線上。

 機構的に難しい点は何もない。


 なおこの時期、本来なら学生会は新入生用のパンフレットの作成で忙しい。

 3月7日からの入校手続きに間に合うように、学生生活や寮の様子等を入れたパンフを作成するのだ。

 

 でも今年は既に作業は終わり、もうすぐ印刷物が本州から航空便で届く予定だ。

 奈津希さんの知り合いの紹介で安くて早い印刷屋を見つけたらしい。

 本来は同人誌用だとか言っていたが。


 そして改造作業は無事27日月曜の昼過ぎに完了。

 そして試運転を待っていた学生会新旧役員全員が海装備で集合している。


「出航!」

 との由香里姉の号令で俺は船を浮上させる。


 このサイズの船は普通は船尾で運転する。

 でも改造する際に前に運転席を取り付けた。

 そして操作体系はマイクロバスと同じにしてある。

 俺の悲しい魔力でも実用的に使えるように色々機構は改良したけれど。


 目指すはこの前マグロを釣った学校裏の入江。

 あっという間に目的地にたどり着く。


「ジェニー、獲物はいるかな」


「もう少し沖合れす」

 ここからはジェニーの指示というか探知魔法に従う。

 まるで人間魚群探知機だな。


「この付近、水深70メートルれ1メーター以上の大物がいるれす」

 早速由香里姉と香緒里ちゃんが仕掛けを落とす。

 なお釣る順番はじゃんけんで決定済。

 片方が大物をかけた場合もう片方は竿を上げるとか、食べられる魚の量が冷蔵庫のキャパを超えた時点で終了という取り決めも。


「ユカリ先輩、もう少しゆっくり待たないと下まで行っていないれす」

「カオリはもう少し巻くれす」

「オサム、進路やや右れす」


 生きたレーダーが深さ、船の速さや方向まで完全に指示してくれている。

 マイクロバスでやった奈津希さんや風遊美さんの時より効率はよさそうだ。

 そう思ったら。


「ユカリさんヒットれす。1メーターより上れす」

 俺は船を停める。

 香緒里ちゃんが残念そうに仕掛けを巻く。


 そして由香里姉と巨魚との強烈なファイトが始まる。

 だが。

 引いていた竿が一気にテンションを失った。


「残念れす。糸が切れたれす」

 大物用の極太なラインがかなり下で切られていた。


 ラインとジグを結び直して選手交代。

 今度は香緒里ちゃんと月見野先輩が仕掛けを落とす。


 今度はすぐに香緒里ちゃんの竿がしなった。

「50センチ位れす。だからアカリさんはそのまま釣っていていいれす」


「って結構重いですこれ」


「それも魚釣りの醍醐味さ。頑張れ」


 と言っている間に月見野先輩の竿も思い切りしなった。

「それは大きいれす。危ないかもしれないれす」


「大きさは?」

 月見野先輩は必死に竿と格闘している。


「1.5メートルはあるれす」

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