第10章 とっても長い春休み

第126話 小話1の1 今度作るのも大物だ

 2月ももうすぐ終わる木曜日。

 新旧役員一同がマイクロバスで訪れた南浜の砂浜に、中古の漁船が待っていた。

 ごく近海で使うような船室の無いタイプ。

 それでも長さ6メートル以上、中の幅も2メートル以上はある。


「父島で新しい船を買われる方がいたそうなので、古い方を購入してここまで曳航してもらったの。

 これを改造すれば空飛ぶ船が作れるでしょ」


 由香里姉のいきなりの話に俺は絶句する。

 そう言えば帰省から戻ってきた後。

 マグロを釣った話を聞いた由香里姉が凄く羨ましそうな顔をしていたような。


「露天風呂の木材でお世話になった父島の木材屋さんに、いい中古の小型船があれば連絡欲しいって頼んでおいたの。春休みに間に合いそうで良かったわ」


「つまりこれを改造して空飛ぶ漁船を作れ、と」


「出来れば早急にね。もうすぐ春休みが始まるし」


 高専の春休みは長い。

 ほぼ3月いっぱいと4月の3分の1は休みだ。

 むろん学生会には新入生用のパンフとか色々雑事はあるけれど。


「それに台風シーズンの食糧難でもこれがあれば魚を捕れるでしょ」


「でも、この船、どうやって工房まで持っていくんですか」

 見たところトレーラーも何もない。


「それも実は相談済みよ」


「修兄、協力お願いします」

 香緒里ちゃんの声。 


 俺は香緒里ちゃんに指示され、船の先に近い方に座る。

 そして真ん中に香緒里ちゃんが座り、後ろには奈津希さんが陣取った。


「修兄はバランスの関係があるので動かないで下さい。では行きます」

 香緒里ちゃんがそう言うと同時に、漁船が浮かんだ。

 例の物にかかる重力を操作する魔法だ、きっと。


「それじゃ動かすよ。工房横まで、GO!」


 漁船がゆっくり方向を変え、そして前進し始めた。

 香緒里ちゃんが浮力を魔法で調節し、奈津希さんの風の魔法で進んでいる。


 前は香緒里ちゃんの魔法では浮力の調整は出来なかった筈なのに。

 香緒里ちゃんの魔法も進化しているようだ。


「何ならこのままで既に完成しているんじゃないか」

「魔法でバランスを取るのが大変なので、長時間は無理です」


 一気に40メートルの崖を飛び越え学校へ。

 南浜から学校は直線距離だと近い。

 500メートル無いだろう。

 あっという間に目的地の工房が見える。


 奈津希さんは船を綺麗にターンさせ、工房と並行な状態にして寄せていく。

 そして香緒里ちゃんの魔法でほぼ衝撃無く船は着地した。

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