第118話 突入

 気がつくと夢の中。

 思った以上にあっさりと入れたな、と俺は思う。

 ここは自分の夢ではない。

 それは何となくわかる。


 ただ出た風景がいつもと違った。

 いつもの公園ではない。

 俺達が住んでいた街でもない。

 別の街。

 俺がいたことがない筈の風景。


 それでも俺はこの街を知っている。

 俺の中の誰かの記憶が知っている。


 だから俺はその記憶の通り歩く。

 タバコの自販機の横を左に曲がり細い路地へ。

 突き当りを左へ曲がり細い水路沿いにひたすら歩く。


 たどりついたのは、小さな水路にかかる橋の下だった。

 枯れたU字溝より一段上のコンクリ部分の隙間。

 探していた白い影がちょこんと入り込んでいる。


「やっぱり、見つかってしまうんですね」

 俺は香緒里ちゃんの横に腰を下ろした。


「由香里姉と喧嘩した時に隠れる場所だよな、ここ」

「修兄の家の近くに引っ越す前の、です。やっぱりわかってしまうんですね」


「俺の記憶でもあるからな、ここは」

「ですよね」


 香緒里ちゃんも彼女と出会う前の俺の記憶を全部持っている。

 だからこの辺はおたがいさま。


「現状だけ説明するよ。今いるのは魔法技術大附属病院。

 目覚めない時に備えていつでも点滴がうてる状態で入院している。

 だから目覚めなければここで、寿命まで点滴をうちながら生きていくことになる」


「修兄は」


「補助ベッドを出して香緒里ちゃんの手を繋いで睡眠中。あと両手は元通りに治っている。傷跡もなく全部繋がっているし機能にも問題ない」


「良かった、手は治ったんですね」

 香緒里ちゃんは少しだけ笑みを浮かべる。


「だからあとは香緒里ちゃんの件が解決すれば全部終了」


「それは難しいです」


 香緒里ちゃんはそう言ってため息をつく。

「修兄に今まで嘘をついていた事がばれてしまいました。私の決断が遅れたせいで修兄に大怪我をさせてしまいました。そして最悪な魔法も使ってしまいました」


「嘘はついていないだろ、言わなかっただけで。怪我の件は完全に治ったから問題ない。最悪の魔法と言っても俺達を守るために使ったんだろ。問題はない」


「でも、本当は補助魔法科でも攻撃魔法科でも入れたのに魔法工学科にしか入れなかったというのは嘘です。物に魔法を付与する魔法は言い訳のために開発した魔法。

 本当の私の魔法は他人の精神操作。それも補助魔法レベルではなく攻撃魔法レベルの強制力のある精神操作です。

 今回使ってしまった魔女の呪縛は、その中でも一番悪い魔法です。報告をするたび対象が上位者に移っていき、最終意思決定者に報告が届いた時点で効力を発揮して対象を死に至らせる殺害の魔法。

 まさに悪い魔女の魔法です。最悪です」


「でもそれも俺達を守るために使ったんだろ。それにあの事件でもその前のマンション襲撃事件でも多数の怪我人が出ているし逮捕者も出ている。

 それを決定した人間が全く罪を負わないというのは不公平だしおかしいよな。だから今回に限っては正当な行使だろ」

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