第115話 修復
白いサマードレスの少女が俺の前にとことこ歩いてくる。
これは姉さんの方だな。
「修、今回は色々大変だったみたいだけど、状況は把握できている?」
声と話し方は今の由香里姉だ。
「出血かショックで意識が飛んじゃったからなあ。説明してくれるとありがたい」
彼女のため息が聞こえた気がした。
「という事はほぼ理解できているって事ね。全くずぶどいというか、もう少し自分を大切にしたら」
「でも俺以外は多分大怪我は無いんだろ、意識なくなる前の感じなら。ならそれ程心配しなくてもいいかと」
「自分の心配をしなさいよ。確かに香緒里もジェニーも翠も怪我らしい怪我は無いわよ。敵も撤収済みで残された人員もいない。だから問題は修だけよ」
予想通りだったがその結果を聞いて安心した。
なら次の課題だ。
「両腕無しで義手を作るのが面倒だよな。香緒里ちゃんにも協力してもらわないと」
「あのねえ、それを理解している癖にそれだけ他人事のように言えるなんてどういう神経しているのよ」
「こういう神経」
少女は頭を抱える。
「冗談じゃなく手から神経線維見えているんだからね。何か心配して凄く損している気分。じゃあ次に変わるわ」
変わるって、いつも通りなら香緒里ちゃんかな。
そう思ったが現れた少女は香緒里ちゃんではなかった。
白い髪に緑色の瞳が印象的な水色のサマードレスの無表情な女の子。
「ひょっとして風遊美さん」
「正解です。修君からは私はどんな風に見えているのでしょうか」
「白いおかっぱの髪に緑色の瞳、水色のサマードレスを着た7歳位の美少女」
「修君はロリコンなんですか」
無表情かつ冷たい口調で言われる。
ぎくっ。
「意識が多分出会った頃の薊野姉妹にあわせて、型を作っているんではないかと」
「まあ、それは置いておいて」
風遊美さんは無表情なまま続ける。
「今、私は由香里さんに中継してもらって修君とお話しています。自分の現状は理解していますね」
「両手が切断されたことなら」
風遊美さんは小さく頷く。
「なら話が早いです。
まず、切断面は修君が意識を失った後、由香里さんが急速冷凍したので本体側も離れた手の側も綺麗に残っています。これについては奈津希が側にいるのでいつでも元の状態に解凍可能です。
次に、私は補助魔法科として当然ある程度の医療魔法も使えますし医療の知識も持っています。それもご存知ですね」
「ええ。という事は風遊美さんの魔法で両手を繋げられるのですか」
風遊美さんは首を横に振る。
「出来ない事はないのですが、完全に元通りとまでは保証できないのが実情です。
でも、修君はご自分の魔法がありますよね。機械を思い通りに製造する魔法が」
何を言おうとしているのかは何となく理解できた。
「でも、あれは機械限定の魔法です。生物に応用したことは無いですが」
「原理は同じです。特に今回は切断されたものを繋ぐだけですから。
必要なら私の記憶を使って医療知識を引き出して下さい。自由に使っていただいて結構です」
ちょっと俺は考えて気づく。
「それだと風遊美さんの全部の記憶を読み放題って事になるけれど。いいんですかそれで」
「私は構いません。見たいと思うならこのチャンスに私の恥ずかしい記憶でも何でも読んで結構です」
あくまで無表情で冷静な口調のまま、風遊美さんはそう言い放つ。
記憶を見られるなんて、ある意味裸になる以上に恥ずかしい事のような気がするのだけれども。
でもそれに風遊美さんが気づいていないという事はありえない。
とするとこの無表情な風遊美さんも相応な覚悟をしている、という事だ。
「わかった。やってみます」
できるだけ風遊美さんの記憶に触れずに何とかやってみよう。
「では私の視界を送ります。魔法はこのままでも使えるはずです」
俺の意識に風遊美さんから見た俺の腕が映し出される。
血や千切れた肉片がかなり生々しい。
「解凍は」
「済ませました。いつでも」
「なら」
俺は魔法を起動する。
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