第112話 凶悪
「それにしても誰がやったんですか」
「知らない」
奈津希さんもそれはわからないようだ。
「何せ危険な住民が揃っているからね、上層階に行けば行く程。
案外隣のタヌキな
「そうなんですか」
とてもそうは見えないが。
「でなければ魔法工学の第一人者なんて看板背負って世界中ノコノコ出歩いたり出来ないさ。聞いたところによると一昔前には不死身の田奈とか異能生命体とか……」
不意に液晶テレビが復活した。
画面には、
『それくらいにしておこうな』
と黒字に白文字で表示されている。
「斯様に怖い主任教授様って訳だ」
奈津希さんが苦笑。
ぞっとする。
何なんだあの人は。
物作り大好きな魔法工学科出戻りオタクの成れの果ての親父虫じゃなかったのか。
そう思ったら画面の文字が変わる。
『これくらい出来ないようじゃまだまだ甘いな。長津田、精進しろよ』
「……何か、田奈先生って大概ですね」
「俺もそう思った」
香緒里ちゃんの意見に俺も同意だ。
化物すぎる。
「って、まさかこの能力で露天風呂を覗いたりはしてないでしょうね」
由香里姉がそう言うと、画面の文字はふっと消えた。
「まさか田奈先生……」
「糾弾に行くかい?」
由香里姉は不敵に笑う。
「それは待った方がいいわ、今はあの部屋先生だけみたいだし。奥様がいる時に行ったほうが面白いわよ」
あ、テレビの画面がまた映った。
『頼むからそれはやめてくれ。声はマイクで聞えるけどカメラは仕掛けていない。本当だ、信じてくれ』
「じゃあ一体何で色々わかるの。マイクってどこのよ」
『私の魔法は感知できるあらゆる機械の制御だ。だから監視カメラがあれば映像が見えるしテレビの画面の操作も出来る。
例えばさっきの侵入者諸君は無線機を使用したので気づいたし、雨水と電線を使いわざと漏電させて麻痺してもらった。
でもその部屋の露天風呂側にはカメラはない。唯一近くにある長津田君のノートパソコンのカメラは物理的に塞いであって使えないんだ。だからパソコンのマイクや電話の受信機から拾った声しか聞こえない。頼む信じてくれ』
どういう魔法だよそれ。
まあ俺の加工魔法や審査魔法と同系統の魔法だろうけれど。
その後、停電から立ち直った部屋の中で、全員で蓋をされていないカメラがないか確認し回ったのは言うまでもない。
唯一カメラが確認された香緒里ちゃんのノートパソコンには俺お手製の金属製完全防護板を貼らせていただいた。
「もう……信じられない」
「まあ田奈先生も覗きに使っているわけじゃないし大丈夫だろ。今回は非常時だから色々情報収集していただけで」
液晶テレビからの応答はなかった。
まあそれが普通なんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます