第8章 冬の嵐

第110話 悪日

 注意報が出ている。

 天気ではない。

 奈津季さん経由の個人的な注意報。

 天候不良との理由で港内にリベリア船籍の貨物船が停泊中との事。


「船籍はリベリアだけど、実態は某国の貨物船だぜ、あれ。この辺を航海しているのは変だよな。それに某国船籍の漁船も大量に近海に出ているみたいだし、気をつけたほうがいいな」


 以上がが奈津季さん情報。

 その言葉を裏付けるかのように、島の空気がいつもと違う。


 制服のおまわりさんの数は変わらない。

 でもいつもは見ない警察の車が島をゆっくり回っていたりする。

 港や空港の警備体制も明らかにいつもより厳しい。

 学校でも念のため、単独での外出は控えるようにとの指導があった。

 2年前のテロの記憶がまだ色濃く残っている事もある。


 それでも学校は普通通り授業をしているし、放課後も変わりない。

 そして俺達も学生会室で雁首揃えて書類整理中。

 やっている事は年度末の書類整理作業の前準備だ。


 色々な書類にはそれぞれ保存期間というものがある。

 例えば5年保存の書類は有効期間+5年間が過ぎた後の4月1日以降に廃棄。

 ただこれを忙しい4月にやっていられない。

 だから年度末まで来年度に廃棄になる書類を別ダンボールに仕分けしておく訳だ。


 4月には学生会主催のオリエンテーションやら寮行事等もある。

 例年やっている事は変わらないので準備もそれほど手間取らないが、書類廃棄にかまけている時間などない。

 だから今、俺達は黙々と書類分類に勤しんでいる訳だ。

 他にも来年度用の必要書類のバインダーを作ったり、細々した作業に事欠かない。


「天気も悪いし、こんな仕事ばかりやっていると息がつまりそうだよね」


「何なら今のうちに全部燃やしちゃおうか、魔法で」


「やめてお願いですから。燃やした後に監査なんてあったら目もあてられないわ」

 深淵の監査殿の言葉にも何か疲れが感じられる。


「何なら今日は早めに切り上げて露天風呂でもやりましょうか」


「うーん、でも明日も授業だしのんびり出来ないよな」

 由香里姉の提案に対し鈴懸台先輩が珍しくまっとうな意見で反対。

 結局うだうだやりながら定時の6時で散会となる。


 ◇◇◇

 

 風と雨の強い中できるだけ屋根のあるところを通って500メートル。

 途中ハツネスーパーで買い出ししてマンションへ。

 最近は奈津希さんも一緒だ。

 奈津希さんは自分の家に寄らず直接俺達の部屋に来て。

 飯をつくり一緒に食べて、露天風呂に浸かってから自分の部屋に帰っていく。

 実際料理が上手で手早いので凄く助かっているのだ。


 自分の家で食べないのかと聞いたところ、

「うちは皆時間がバラバラなんで、皆勝手に食べているからね」

 との事で問題はないらしい。

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