第109話 夜は終わらない

 1月7日夜。

 例によって俺はぬる湯に入っている。

 そしてやっぱり隣には風遊美さん。

 今はそれに続いたメイン浴槽のこっち側に奈津希さんがいる。


「久しぶりに楽しい冬休みだったけど、今日で終わりですね」


「何なら冬休み中はここに泊まればいいのに」

 家主を無視して奈津希さんが言う。


「でも明日午後便で由香里さん達が帰ってくるんですよね。だったら誰も使っていない位に部屋も全部片付けないと。無断で泊まっていたら気分悪くするでしょ」


「その心配はないさ」

 やはり家主然として奈津希さんは話す。


「何せここに泊まっているのは由香里さんの依頼だからさ」

 えっ!


「本当ですか」

 奈津希さんはにやりと笑う。


「ブラコンのお姉さんがさ、弟が心配だから泊まって面倒見てくれってさ。修に先にこっちに戻られて焦ってさ、僕に電話がかかってきたんだ」


 風遊美さんが奈津希さんの方を見る。


「まさかと思うけど、私の目の件や魔法の件も依頼のうちじゃないでですよね」


「目は修の天然、魔法は僕の興味と実利。まあどっちもいい機会だっただけさ」


「何だかしてやられた気分です」


「いいじゃないか、その分自由になれただろ」


「そうなんですけれど、何か詐欺師に騙された気分です」


「気にしない気にしない。神は天にいまし、すべて世は事もなしってと」


 話の接ぎ穂に俺は聞いてみる。


「奈津希さんはクリスチャンでしたか」


「うんにゃ。うちは敬虔なるIPUさ」


「そういう名前の宗教は知らないです」

 俺も知らない。


見えないインビジブルピンクのユニコーン教さ。彼女の聖なる蹄に祝福あれ」

 ジェニーに続き、よくわからない宗教信者が増えてしまった。


「何なら風遊美も入信しないか」


「私は無神論者ですから」


「神はいいぞ。もしも本当にいるのなら」

 それが信じている人の台詞なのだろうか。

 まあそういう宗教なのかもしれないけれど。


 冷蔵庫の中に魚がまた1種類増えている。

 今日の昼に風遊美さんが釣り上げた大きなアジもどき。

 清涼飲料水も3本冷蔵庫に用意されている。

 うち1本は奈津希さんの分類では清涼飲料水。

 でも風遊美さんの許可が出るかは微妙な代物。


 冬休み、家主がいない最後の夜。

 それはまだまだ終わらない。

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