第108話 奈津希さんの企み(3)
「最初から私の魔法を試すつもりだったのですね」
「厳密にはいざという時その魔法を使えるか、だけどね」
奈津希さんはそう言って続ける。
「実際に危険なのは本当だし、今この島にも危険の兆候があるのは事実なんだ。だからいざという時に頼りにしていいか確かめたかった。悪かったな」
不意に風遊美さんの口調が変わる。
「それだけ、ですか」
「あと個人的な興味があったのも認めるよ」
不意に風遊美さんはおもちゃの刀を構え、にやりと笑う。
「ならその個人的な興味、最大限に確認してみようと思いませんか?」
始めて見る風遊美さんの攻撃的な笑み。
「まだ試合は終わっていないですわ。だから試合の続きを致しましょう」
そう言うなり風遊美さんは姿を消す。
次の瞬間背後から振り下ろされた刀を、奈津希さんはほとんど奇跡的な反射神経と風の魔法で間一髪避けた。
「ちょっと待て、話せば分かる」
「問答無用ですね」
風の魔法で取った間合いも、風遊美さんには関係ない。
再び奈津希さんの背後から刀が襲う。
そして奈津希さんは再び紙一重で避けた。
「だからもうわかったから、いいってば」
奈津希さんの反撃は全て躱される。
「この試合方法を設定したのも、私の魔法を知っていたからですよね」
奈津希さんの背後、刀を向けられない方向に風遊美さんが再び出現。
「知らなかったけど予想した。確かにその魔法を出しやすいようにこの試合方法を選んだ」
奈津希さんは再び何とか避ける。
「なら最後まで付き合うのも義理では無いでしょうか」
そして俺は気づく。
奈津希さんが間一髪避けているんじゃない。
奈津希さんが間一髪避けられるよう攻撃されているんだ。
当然奈津希さん自身も気づいているんだろう。
ただ攻撃魔法科3年筆頭、避けられる攻撃を避けないのはプライドが許さない。
かくして奈津希さんは風遊美さんに遊ばれ続ける……
◇◇◇
「久しぶりにいい汗をかかせていただきました。マンションに帰ってお風呂に入りましょう」
そう言って何かご機嫌な感じの風遊美さん。
「な、前に言ったとおりだろ」
「何がですか」
俺は心なしか疲れた表情の奈津希さんに尋ねる。
「僕が3年以下で勝てなさそうな相手が2人いて、1人は風遊美だって話」
「何か面白そうな話をしているようですね」
風遊美さんが首を突っ込んでくる。
「単なる戯言さ」
「でも2人っていうのは聞き逃せないですね。誰なんですか」
「それは言わぬが花って奴さ。特に修にはね」
「もしそれが私の予想と同じなら、同意見ですね」
何だろう。
そして誰だろう。
俺にはわからない。
「誰かと聞いても答えてはくれないんですよね」
「まあね。でも聞く必要もきっと無いよ。色んな意味において」
「それだけは同意ですわ」
俺には分からないが、2人には共通の認識があるようだ。
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