第107話 奈津希さんの企み(2)

「風遊美は調子が悪いようだけど関係なく行くよ」


 奈津希さんはそう言うと、軽くジャンプして風の魔法で一気に距離を詰める。


「例えば香緒里ちゃんばかり狙われているようだけど、僕から見れば修の魔法のほうがよっぽど実用的で危険だ」

 そんな事を言いながら全力走行以上の速度で迫ってくる。

 このままでは動かない風遊美さんも危ない。

 なので俺は前へ向かって走って風遊美さんと距離をとる。


「どういう意味ですか、奈津希さん」


「そのままの意味さ。修の魔法があれば機械類の稼働率を限りなく上昇させる事が出来る。他の国で開発された最新鋭の機械も理論と材料さえわかればコピーし放題だ。もしそれが兵器を扱えば、と考えたらその危険性はわかるよな」


 確かにそうかもしれない。

 俺の魔法で直せない機械はないし材料さえあれば複製できない機械もない。

 それが現在の物理学上の理論で出来ているものならば。


「しかしそれを何故今言うんですか」

 奈津希さんの剣をとっさに俺の剣で弾き返す。


「危険性を認識して欲しいからだ」

 奈津希さんはそのまま飛ぶように空中を移動。

 俺の左側へと移動し間合いを取った。


「由香里さんは気づいている。だから寮より安全なセキュリティ完備のマンションに移って修も引っ張っていった。香緒里ちゃんのためと言ってマンションにつけた監視警戒機器も半分は修のためだ。そして」

 奈津希さんが一気に跳ぶ。


 振りかぶった剣が猛烈な勢いで襲ってくる。

 とっさに俺は刀で弾こうとしたが勢いが違った。

 俺の刀は弾き飛ばされる。

 やられる、と思ったが奈津希さんはそのまま俺から離れて間合いを取り直した。


「修には自衛出来る魔法はない。腕力も人並み。さてどうする風遊美。次は一本決めるつもりで入れるぞ」


「奈津希、あなたに何がわかるの」

 風遊美さんが尋ねる。


「わからないから聞いている」


 何か俺はダシに使われているようだ。

 でもその隙に。

 俺は落としたおもちゃの刀に魔法を発動する。

 頼りない俺の魔法でも、これ位の重さのものなら加工と同様の力で動かせる。

 本来の使用法ではないから大した事は出来ないが。


 おもちゃの刀が俺の方へと動き出す。

 だが。


「甘い」

 そう言って奈津希さんが跳ぶ。

 慌てて俺は奈津希さんの攻撃を避けようとするが間に合わない。

 速度も勢いもまるで違う。


 やばい、と思った瞬間。

 ふっと俺の前方に何かが現れる。

 風遊美さんだ。

 風遊美さんは奈津希さんの攻撃を刀で受け止めた。


「これで満足ですか」


「ま、及第点かな」

 奈津希さんは刀を降ろした。

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