第105話 緑色の瞳

 俺と奈津希さんはリビングでテレビを見ている。

 実際にはテレビは何か番組を流しているだけで見てはいない。

 単に間を持たせるためについているだけ。

 風遊美さんは真ん中の部屋から出てこない。

 もうとっくに風呂からは上がっている筈なのだが。


「それにしても天然というのは最強だよな」

 にやりと笑って奈津希さんは言う。


「普通は女の子に向かって似合っていないとか言わないぞ。それも化粧や髪型や服ならともかく、普通は変えられない目の色とかそんなのを」


「似合っていないとは言っていないじゃないですか」

 俺は不自然だと何となく感じたのがちょっと言葉に出ただけだ。

 まあそれでも失礼だとは思うが。


「それにわざわざ大事にしたのは奈津希さんじゃないですか」


「まあな」

 あっさりと奈津希さんはそれを認める。


「ちょうどいい機会だと思ったからさ」

 奈津希さんは言う。


「これから1年ちょっとは一緒にやっていくんだ。なら面倒臭いことはさっさと片付けておこうと思ってさ。

 そうでなくても風遊美あいつは色々隠し過ぎなんだ。昔はどうであれ、ここは日本の魔法特区。世界に誇るHENTAI文化の発祥地日本が誇る魔法特区なんだ。怪人怪物なんでもござれ、多少の違いなんで誰も気にしちゃいねえ。

 ただそうは言っても、本人だとなかなか壁は超えにくいんだと、うちのおふくろが言っていたな」


 これは絶対風遊美さんに聞かせているな、と思いつつ俺は頷く。


「僕はこの島育ちだし、修は日本の本土育ちだから多分本当のところはわからないんだろうけどな。

 ただ少なくともこの島には差別も偏見もほとんど無いし、そんな事に囚われていたら損だ。

 だから誰かが気づかせてやらなきゃならないんだが、それも難しいよな。どうしても僕達が知らない重さってのがあるから。

 そういう意味では天然最強だよな、というのが結論という訳さ」


 何だかな。

「何かすごく持って回った言い方で物知らずと言われた気がします」


「褒めてるんだよこれでも。修みたいな素直な奴に言われた意見が一番入りやすいしな。さて、そろそろいいだろ」


 俺は奈津希さんの視線の方向を振り返る。

 真ん中の部屋のドアが開き、風遊美さんが出てきた。

 銀色の髪はまだ濡れていてストレート気味になっている。

 いつもの眼鏡はかけていない。

 そして目の色が前の濃い栗色ではなく、緑色。


 あとはいつもと全く同じ。

 でも今までと違って全てが自然で、そして。


「綺麗だ」


「えっ」

 風遊美さんが不意に立ち止まり、顔を赤らめる。


「あのなあ修、天然なのはいいけどまた口に出ているぞ」


 言われて気づいた。

 つい感想がそのまま口に出てしまったらしい。


「本当にそう思いますか? この目の色、変ではありませんか?」

「似合っていますよ。今のほうがずっと自然に見えます」


 それは本当だ。


「本当に、目の色とか髪の色とか怖くないですか」


「何故ですか」

「怖いと感じないですか?」


「全然、よく似合っていますよ」


「本当に?」

「本当ですって」

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