第104話 銀色の髪

「そう言えば髪はそのままでいいんですか。雨で濡れますよ」


 雨はそこそこ強めに降っている。

 顔を時々拭いたくなる位だから、当然髪はびしょ濡れだ。

 俺や奈津希さんは短いからどうにでもなるが、風遊美さんは肩より少し長い髪。


「雨に濡れるのは割と好きなんです。全部流れ落ちてくれるような気がして」

「でも髪が傷まないですか。何なら香緒里ちゃんお勧めのトリートメントもありますけど」


「いいんです。私この髪嫌いですから」

「もったいないですよ。綺麗なのに」


 不意に風遊美さんは俺の方を睨む。

「本気でそう思っていますか?」


 ちょっと今までと雰囲気が違う気がする。

 でも。


「今は雨でちょっと潰れちゃっていますけどね。でも風遊美さんは色が白いし、綺麗だし似合っていると思いますよ」


「本当に?」


「ええ」

 俺は努めて何でもない普通の様子で、でも言いきる。

 何故かそうしなければいけないような気がして。

 綺麗だと思うのは本当だ。


 風遊美さんの銀髪は不思議と自然に見える。

 脱色してグレーに染めている連中とは全く違って。

 それは脱色して傷んだ髪の不自然さがないからかもしれないし、普通より白い肌の色のせいかもしれない。

 あるいは小さめの顔やくっきりした大きいけどやや細めの目、形はいいけどそれほど高くない鼻とか顔立ちのせいかもしれない。

 でも、よく見ると、強いて言えば。


「眼鏡と、目の色かな」


「えっ」


「いやいや、何でもないです」

 眼鏡と濃い栗色の瞳がちょと顔全体の印象とあっていない気がしたのだ。

 それがつい口に出てしまった。


「もう一度聞きます。今、何を言おうとしたのでしょうか?」


「眼鏡と目の色が不自然だ。そう言おうとしたんだろ」

 俺の背後から声がする。

 振り返らないが、いつの間にか奈津希さんがそこに来ていたようだ。


「奈津希、修に何か言ったの」


「僕は何も風遊美あんたから聞いていないし、当然修にも話していない。何なら修に聞いてみな」


 風遊美さんは俺の方を見る。

 さっきほどの変な雰囲気というか威圧感はない。


「本当」

「本当ですよ。やっぱり髪が綺麗だよなと確認して。顔にもあっているし似合っているよなと思ったんですが、ちょっと眼鏡と目の色が浮いて見えたんです」


 風遊美さんはちょっと考える素振りを見せて、そして改めて俺に聞く。


「ひょっとして、この前のお風呂の時に気づいていました?」


 俺は思い出す。


「そう言えば、眼鏡は度が入っていないなとか、瞳の輪郭が変だなと思ったような気がします」


「じゃあ関係ないのですか?」


「単純に今見て思っただけです」

 実際にそうだからしょうがない。


「わかりました」


 そう言って風遊美さんは何かを考えるような感じで黙り込んだ。

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