第83話 逃げる俺
「うーん、何か先生の忠告とおりすね。ちょっとワタシの望んだ方向と違うれす」
ジェニーがちょっと不満そうな顔をする。
そして完全に身を起こしてベッドに足を伸ばして座り、俺の方を見る。
「ワタシはジェニー、ジェニス・ブルーリーフヒル。12月18日生まれの16歳。アメリカのロサンゼルス出身」
突然ジェニーは自己紹介を始めた。
何でだろう。
「血液型はB型。宗教は両親が敬虔なパスタファリアンでした」
「パスタファリアンって、スパモン教か」
「オサムも知っているすか」
空飛ぶスパゲティモンスター教に敬虔な信者っているのだろうか?
「両親とは死別、付き合いのある親戚縁者も特になし。実家がロサンゼルス郡サンタモニカにあるけど維持できないので売却予定。日本での後見人は田奈先生」
「田奈先生って、あの俺の担当の」
「そうれす。魔法工学科の主任教授の田奈先生れす。ワタシの先生の友人で義手を作った人れす」
うーん、人間どこで繋がっているかわからない。
とするとあのむさい中年オタクの田奈先生も若い頃は色々あったのだろうか。
想像できないけれど。
「あとはワタシについて、オサムは何か聞く事あるれすか」
「いや今は、というか何で」
ジェニーはにやりと笑う。
肉食獣系統の笑みだ。
「先生が言っていたれす。もし義足を作った彼が先生の知っている彼と同じタイプなら、鈍感だから直接行動に出ないと色々気づいてもらえないだろうって。ワタシもそう思うれす」
不穏な予感がする。
「だからまずはワタシの自己紹介をすて、何か疑問点が無いか聞いてみたれす。そして次はワタシの質問の番れす。
オサムはワタシの事を好きれすか。好きれないならどうすれば好きになってくれるれすか」
いきなり危険な質問が来た。
「好きだけど……」
「友達としてれすか、恋人になれますか、ユカリ先輩やカオリと較べてどうれすか」
俺には答える余裕がない。
「もし恋人としてじゃないなら、どうすれば恋人になれますか。何ならこの場で既成事実を構築すればいいれすか。ワタシはパスタファリアンなんで禁忌はないれすよ。燃えるように愛するのはパスタファリアンの教義なのれす」
あ、完全にアウトな領域に踏み込みそうだ。
かくなる上は三十六計。
俺は身体を回転させてベッドから出て逃走する。
「あ、オサム……」
ドアを素早く開け身体を滑り込ませて部屋を出る。
そのまま玄関までダッシュしサンダルを履いて外へ出る。
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