第84話 時代は廻る

 玄関の扉を閉めて一安心。


 ジェニーは結構ラフな格好をしていた。

 だから着替えないと外には出られまい。

 まあ外まで追っかけてくる可能性はあまりないと思うけど。


 そして俺は持ち出した携帯電話からある電話番号へと電話をかける。

 現在午後9時10分。

 あの親父ならまだ起きているはずだ。


「はい、田奈ですが」

「先生すみません長津田です。追われているんで匿って下さい。玄関前にいます」


 割とすぐに玄関ドアが開く。

 俺は開いたドアに身体を滑り込ませた。

 そして玄関ドアを閉める。


「どうした長津田。何か面白い事でもあったか」


「先生の過去に追いかけられました」

 これ位は言ってもいいだろう。


「何だか知らんがまあ上がれ。他の家族は東京に遊びに行っていて日曜まで帰らん」


 お言葉に甘えて上がらせてもらう。


「部屋は北の客間が空いているから適当に使え」


 これは便利かもしれない。

 後日また利用させてもらう可能性もありそうだ。


 さて、ちょうどいい機会なので、俺はさっきのジェニーの話で気になったところを先生オヤジに聞いてみる。


「ところでジェニーの後見人、田奈先生だったんですよね」

「ああ、断れない知り合いに頼まれてな」


「その断れない知り合いって昔の彼女ですか」


 返事に一拍の間があった。

「仲間って言い方が一番近い感じだな、私としては」


 田奈先生は広いリビングの奥にある書斎スペースへ歩いて行く。

 俺がついていくと先生はCADらしきウィンドウの上に新たにフォルダを表示させ、写真と名前がついたディレクトリ内のあるフォルダの1枚の写真を表示させた。


 画面に表示されたのは、大学生くらいの男1人女3人。

 中心に写っている男は、よく見ると田奈先生の面影がある。


「俺の左に写っているのがアナ、アナスタシアだ。私にジェニーの事を頼んできた張本人」


 褐色の髪の色の白い美人が、昔の田奈先生の横で笑っている。


「アナさんの義手を作ったのは、田奈先生なんですよね」


「それも聞いたか」

 田奈先生はふっと息をつく。


「あの頃はまだ魔法工学という概念が無くてな。俺は大学の機械工学科で院生しながら何とか魔法と工学を融合できないか悪戦苦闘していた。


 そんなある日、担当の助教授の娘が事故で右腕の肘から先を切断してしまって、魔法を使って何とかならないかという話がやってきた。

 医学的な方法は魔法を使っても無理だったと聞いてな、とっさになんとかしますと受けあってしまった。

 まあ勢いみたいなもんさ。


 当時は今ほどいい材料も無かったし方法論も手探りだった。材料も一から開発して、俺としては当時の全能力を使って作ったのがあの義手だ。

 当時は魔法の工学における応用を認めさせようという功名心もあったしな。


 正直な所完成度はお前の作った義足と比べて遥かに劣る。アナの魔力に依存しているから汎用性もない。

 腕力だってあの世代の女子の8割程度の出力しか出ない。

 でも思い通りに動かせるという意味では最大限拘った。

 本物の腕よりも思い通りに動き細かい作業もこなせるというように。


 そうしたら思った以上に喜んでもらえてな。

 俺が物作りを本当の意味で好きになったのはあれがきっかけだったかもな。

 アナのお陰で変な功名心無しでと言うか、純粋に物を作って人に喜んで貰えるのが楽しいと気づいた気がする。

 そのうちアナが同じ大学の学部に留学してきて、アナが院を卒業するまで5年位皆でつるんでいたな。まあそれはともかくとして」


 先生は俺の顔を見る。

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