第58話 小話3の5 魔法特区の空に

 全てをさらけ出して諦めと悟りの境地にたどり着いて。

 俺はおとなしく湯に浸かっていた。

 確かにまあ気持ちいいことは気持ちいいのだ、大きい風呂は。

 雑念の元がその辺りを動き回らなければ、だが。


「このシャッター、開くすか」

「開きますけれども雨風が吹き込みますわよ。それに万が一誰かに見られたらまずいですわ」

「今日は誰もこないす。何なら魔法で見るすか」


 ジェニーが何か唱える。

 俺の脳裏に新しい感覚がプラスされた。

 イメージ的にはこの工房を中心とした学校全体を含む付近の上空から見た鳥瞰図。


 この工房内に6つの動く光点が多分俺達。

 校舎内にある動かない光点は監視カメラだろう。

 後は最も近いのが男子寮にある光点で、付近100メートルには光点はない。


「これってひょっとして」

「私の魔法す。近くにいる人やカメラを探知出来るす。共有することも出来るす」


 これは確かに便利だ。

 こうやって人目をはばかるような活動をしている時は特に。


「じゃあちょっとだけ、シャッターを開けてみるわね」

 由香里姉が全裸のままとことこ歩いてシャッターのボタンを操作する。


 雨は強いが思った程風は吹き込まない。

 身長くらいまで開けてシャッターを止める。

 と、ジェニーが飛び出していった。

 全裸に裸足のまま外へ出て、両手を広げ全身で雨を浴びる。


「火照った身体に気持ちいいすよ。開放感もサイコーす」


 その台詞を聞いて鈴懸台先輩が飛び出していく。

「成程、確かにこれは気持ちいいね」


 と聞くと他の面々もぞろぞろと外へ。

 思い思いの姿勢を取って豪雨を楽しみ始める。


 夜の校舎を背景に全裸女子高生5人というのは背徳的な気もするが、何故か今は不思議とエロさを感じない。

 むしろ幻想的というかいい感じ。

 まあ俺の神経がいじめられ過ぎて過適応を起こしている可能性も大だけれども。


「修兄もこっち来ないですか。気持ちいいし何か楽しいですよ」

 香緒里ちゃんに誘われ、俺も風呂から出てそのまま外へ。


 確かに冷たすぎない豪雨のシャワーが気持ちいい。

 鈴懸台先輩はアスファルト舗装の上に仰向けに寝て、全身で豪雨を受け止めていたりする。

 髪とか大丈夫かな、と少し思うけれども。


 その後かなり長い間、俺達は全裸のまま風呂と外とを行ったり来たりして、豪雨と風呂を楽しんでいた。

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