第42話 小話4の8 ヒントはあります何処にでも

 不意に2人の動きが止まる。

 そして力が抜けたように崩れて海中へと落ちた。

 慌てて助けに行く俺と香緒里ちゃん。

 そして背後から聞こえる低い声。


「胸なんて飾りですわ。エロい人にはそれがわからないのよ」

 ……コンプレックスあったんですね月見野先輩。


 香緒里ちゃんと協力して何とか2人を砂浜に引っ張り上げる。

 ひっくり返して気道を確保。


 2人共水も飲んでいないようだし大丈夫だろう。

 そうなる程度に月見野先輩が魔法を調整したのだろうけれども。

 ズレている水着も直して2人を置いて。


「これで大丈夫だろ」

「そうですね」

 そう言って、ふと香緒里ちゃんは俺の方をみて少しもじもじとする。


「ん、どうした」

「ええと、修兄もやっぱりおっぱいが大きい方が好きなんですか。」

 えっ。


 どう答えようか俺は本気で悩む。

 どんな答えだとこの場を無難に逃げられるだろうか。


 大きい方が好きと言うとこっちに意識を向けている月見野先輩に抹殺される。

 でも『貧乳はステータスだ希少価値だ!』と叫ぶほど俺は変態紳士じゃない。


 ちなみに香緒里ちゃんは由香里姉と同じように普通サイズ。

 悩みつつ考えて、出たのは平凡な台詞。


「大きいか小さいかではなく、誰のかのほうが重要だろ」

 どっかで聞いた台詞だが、とりあえずこれで誤魔化そう。 

 でも香緒里ちゃんは少し考えて、次の質問をする。


「じゃあ私のおっぱいは好きですか」

 そう言って俺の方を見る。


 こら、その質問は反則だろう。

 それこそ答えに困る質問だ。

 と思って悩んだ時。


「香緒里ちゃん、長津田君が困っていますわ」

 思わぬ助け舟を月見野先輩が出してくれた。


「え、でも」

「さっきの長津田くんの言葉と併せると、その質問は『長津田君は私のことを好きですか』と直球で聞いているのと同じ事になりますわ。それを今、長津田君の心の準備もないままで聞いてもいいのかしら」


 香緒里ちゃんは月見野先輩の言っている事を理解したらしい。

 ぱあっと顔を真赤にする。


「だからその質問は、もっといい機会に取っておいた方がいいと思いますわ」

 そう言って月見野先輩は笑う。


「馬鹿どもが目覚めるまであと3時間位ですわ。私はそこの磯場で素材になりそうな生物探しをしておりますので、せっかくの機会ですからお二人でのんびりここを満喫されてはいかがですか。では失礼致します」


 それだけ言って返答も聞かず、さっさと月見野先輩は歩き出した。

 俺達はただそれを見送る。


「何か……自由な人だな」

「そうですね。ひょっとしたら役員3人の中で最強は月見野先輩なのかもしれないです。ん、最強ですか……そうだ!」


 香緒里ちゃんはいきなりダッシュしてマイクロバス内に駆け込む。

 そして出てこない。

 どうしたのだろうか。

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