第21話 小話1終話 うまい話には落ちがある

「どうですか。食べられそうですか」

 作業は由香里姉と鈴懸台先輩に任せ、俺は月見野先輩に鑑定をお願いする。


「全部大丈夫ですわ。シガテラ毒があるのもいないですし不味いのもいないようです。ただちょっとだけ今思いついた問題点があるのですけれど」

 何だろう。


 鈴懸台先輩の作業は順調だ。

 でっかい衣装ケースが既に半分以上魚で埋まっている。

 一応大漁と言ってもいいだろう。

 なのに問題とは。


「この魚、誰が調理するのでしょうか。誰か魚を捌ける人っていたかしらね」

 あっ!

 その場の空気が凍りついた。


 まず由香里姉に作らせてはいけない。

 彼女の料理の腕は殺人級だ。


 妹の方は少しはましだ。

 不味いが食べても死なないという点において。


 勿論俺も魚を捌く技術なんて持っていない。

 俺の専門は機械であって生物ではないのだ。


 そして今の発言からして月見野先輩も多分対象外。

 とすると残ったのは鈴懸台先輩だが……


「鈴懸台先輩は魚を料理するのは得意ですか」

「魚?焼けば大丈夫なんじゃない?」


 駄目だ……。

 なまじ大漁なだけに始末に負えない。


「誰か魚を捌ける友人がいませんか」

 誰も声をあげない。

 沈黙がその場を支配する。


「いないなら私が料理するわ」

「結構です。由香里姉は運転に専念してください」


 食べても大丈夫な食材から毒をつくるのは由香里姉の特技だ。

 本人は自覚をしていないが俺は数回あの世を見た。


 だから由香里姉には次の言葉を贈ろう。

 ネバーセイ、ネバーアゲイン!

 いやこれだと「次はない」とは言わないでという意味か。

 ネバーセイ・アゲインだけだな。


 と思ったところで俺の頭にある考えが閃いた。

 今ならこれを持っていって調理してくれるところがある。

 腕は確かだ。


 唯一の欠点はこの大漁の成果のほとんどを失うこと。

 それでも食べられない料理を量産して皆で死にかけるよりはましだ。

 だから俺は宣言する。


「カフェテリアに持っていきましょう。今なら食材何でも大歓迎の筈です。料理の腕も確かですし皆に感謝されるでしょう」


 月見野先輩は少し考える。

「そうですね。たまには皆に感謝される事をするのもいいかもしれません」

 食べられない大量より食べられる少量を選んだということだ。


「まあ人助けにもなりますししょうがないですね」

 香緒里ちゃんも同意する。


「ん、人助けならしょうがないな」

 鈴懸台先輩も同意してくれた。


「皆の意見ならしょうがないわね。じゃあ大学のカフェテリアまで行くわよ」


 鈴懸台先輩が網をしまい扉を閉めたのを確認。

 マイクロバスは浮上して島へ向かって飛行を開始した。


 ◇◇◇

 

 カフェテリアのおばちゃん達からは大変感謝され、おかげで晩御飯だけは大変豪勢になった。

 グルクンの唐揚げやミーバイやアカマチやマクブーの刺し身、イワシ類の小魚の丸揚げ等久しぶりに料理らしい料理を俺たちは食べまくる。


 調子に乗った由香里姉と鈴懸台先輩が次の船が入港した木曜日までの間、風の弱い隙を狙って出漁しまくったのは言うまでもない。

 おかげでカフェテリアにはほぼ毎日新鮮な魚メニューが並び、学生会幹部会が皆に賞賛される珍しい事態が発生した。


 ちなみにその裏で。

 海に出るたび下回りを洗車して主要部分をグリスアップしまくった、俺の誰も認めてくれない苦労があったのは言うまでもない。

 疲れた……

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