第22話 小話2の1 切れない事も必要だ
うちの高専。
授業も試験も厳しいが課題製作も多い。
慣れていない1年生のうちはこれが本当に厳しいのだ。
香緒里ちゃんも例外ではないらしい。
「修兄、ちょっと課題でヒント欲しいんですけれど」
いつもの工房で課題用のアルデュイーノのプログラミングをしていた俺に。
香緒里ちゃんがそう尋ねる。
「何?」
「今度の課題は魔法を使った便利な家庭の道具という事なので、よく切れる包丁を作ろうと思ったのです。でもなかなか上手く行かないです」
「どんな感じに上手くいかないの?」
俺は聞いてみる。
「まず最初は普通の包丁に『何でも切れる』という属性を付与してみました。するとうっかり触ることすら出来ない包丁が出来ました。置いただけでまな板を包丁の形に切って潜っていきそうだったので慌てて付与魔法を消去しました」
まあそれはよくある話だ。
「次は刃の部分だけ何でも切れるという属性を付与してみました。でも試しに大根を切ってみたところ、大根とともにまな板まで切って更にキッチンの奥の方へと全部切りながら落ちていってそのまま行方不明になりました。今頃あの包丁はマントル層まで辿り着いたでしょうか。キッチンそのものは直しましたけれど心配です」
「まあ未だに噴火が起きていないから心配する必要は無いだろうな」
「そうですね」
彼女は頷いて更に続ける。
「食品はほぼ炭素が入った物質で出来ているので、次の試作では炭素と炭素の結びつきを切断する属性を付与してみました。今度はキッチンは切らずに済みましたがやっぱりまな板が切断されてしまいました。なので今、どうすればいいかわからなくなったのです。締切は明後日です。諦めて他のものを考えたほうが良いでしょうか?」
成程、状況はわかった。
「本当は『食品に限定して切る』属性を付与出来れば良いんだけどさ。それは無理なんだろ」
俺の確認に香緒里ちゃんは頷く。
「食品という分類分けだときちんと定義できないのです。人によって分類が変わったりするので。定義しきれないものは付与出来ません」
成程。
「切りたいものを切る、も駄目なんだな」
「定義しきれないから駄目です」
「なら切る時の動作で分けるしか無いな」
「動作、ですか」
「例えば包丁は普通押し当てるだけじゃない、引いて切るだろ」
俺が包丁を使う動作をしてみると、香緒里ちゃんは頷く。
「確かに引いて切ります。でもそれがどうなるのですか」
「引かなければ切れないようにするのさ。普通はまな板まで刃が到達したらそれ以上包丁を動かさないだろ」
「でもそんな属性はどうやって付けるんですか。水平面での速度差があれば切れるというのではまな板の上でしか使えない包丁になると思うのですが」
「魔法の属性じゃなくて構造で作るのさ」
この辺の発想の違いは俺と香緒里ちゃんの経験差だ。
「イメージしてみてくれ。包丁に5ミリごとに何でも切れる場所とただ細い刃があるだけの場所を作る。包丁の刃に垂直に5ミリの縞縞がある感じだ。イメージできるか」
「ええ、それは理解できます」
「それで切りたいものの上でその包丁をスライドさせてくれ。切れる部分が僅かに出来るよな。次に包丁をスライドさせるとその横の部分が切れる。それを繰り返すと」
香緒里ちゃんは少し考え込み、そして顔を上げる。
「確かにそれなら引けば切れるし引かなければちょっと切れただけで包丁が止まります。うん、確かに出来ますね」
「だろ」
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