第5話 飛ぶぞ飛ばすぞ実習課題

 試作品が完成するまで3日かかった。


 まずこの飛行機械を作る前に。

 注文を受けていた杖を完成させる。

 幸い残り工程はわずか。

 焼成した頭部分に魔石を裏から埋めて杖本体と頭を固定。

 頭部分の細かい意匠を削って調節して、最後に磨いてやれば完成だ。


 最高の出来とは言わない。

 でも及第点以上の出来にはなっていると思う。

 それに使ってみて気に入らなければ後で調整もするし。


 そしてそこからまず飛行機械の設計図作成。

 形はどうしようかと考える。

 フルスクラッチで作る程時間の余裕は無いだろう。

 ある物を使って製作するのがベターだ。

 そんな訳で自転車のように乗る方式に変更。

 そこいらに捨ててある自転車フレームを使用して作ることにする。


 自転車の前後に浮上用の重りを重さを調整できるように取り付け。

 更に自転車の後ろに液体窒素用のタンクを取り付ける。

 このタンクは結構しっかり作り込む必要がある。

 ある程度圧力をかけてやる予定なので。


 その他圧力調節の弁やら何やら考えていたらだ。

 設計図が完成しないうちに部屋の使用門限7時になってしまった。

 仕方ない。

 学校内のサーバに作成途中の設計図を保存。

 寮の自室で呼び出し夜中までかけて設計図を仕上げる。


 そして次の金曜日の放課後は第1工作室にこもって丸々作業。

 元になる自転車フレームはちょうどいいのを学園内ゴミ捨て場から調達。

 余分な部品を外してサビ取ってと。


 香緒里ちゃんが様子を見に来たし完成した杖を引き渡しもしたのだが、頭の中は今の製作物のことでいっぱいの状態。

 幸い杖の出来に文句は無かったようだった。

 香緒里ちゃんも自分の頼んだことなので納得してくれた模様。


 更に休みの土曜日も第1工作室にこもって、日曜日もこもって。

 やっと機械それ自体の工作は終わった。

 格好はあまり良くは無い。

 自転車のフレームにあれこれ部品を溶接した、そのままだ。

 でも理論上も製作精度上も問題は無い。

 後は香緒里ちゃんに魔法をかけてもらって、試運転するだけだ。


 月曜は1年生は授業が4限まで。

 3限までの俺は第1工作室から完成した試作品を出し、乗れるよう準備する。

 液体空気採取用ファン用のバッテリーも充電済み。


 香緒里ちゃんの体重を45キロと仮定した場合の重量調整も完了している。

 俺の場合はさらに重り4つを前後に載せてやればいい。


 重りを入れた分だけ浮くという香緒里ちゃんの魔法。

 これを重量調整タンクに付加すれば、重さがそのまま浮力になる。

 念のため更に追加の重り40キロも用意済みだ。


 さて、試乗準備。

 俺は試作品の前後輪をワイヤーで近くのコンクリから出ている鉄筋につなぐ。

 ここは前に建物があったところ。

 取り壊した後もコンクリ打ちっばなし部分や鉄筋が出た部分が残っている。

 今回の実験にちょうどいい場所だ。


 4限終了のチャイム終了後、思ったより早く香緒里ちゃんが現れる。

 見ると息を切らしている。

 走ってきたらしい。


「長津田先輩、準備できたですか」

 はあはあ言いながらもそう俺に聞く。


「あとは香緒里ちゃんに魔法をかけてもらえば完成。頼めるかな」

「勿論です。魔力は十分です。では、かける魔法を説明してもらっていいですか」

「うん、じゃあまずここのパイプに窒素しか通さないフィルタ機能を……」


 そうやって

 ○ 窒素しか通さないフィルタ魔法

 ○ 窒素タンクや吹き出し口にかける温度調整付加の魔法

 ○ 重量調整タンクに『内部に入ったものの重量が反転する』魔法

をかけてもらう。


 前後輪に通していたワイヤが引っ張られ、本体が宙にちょっとだけ浮く。

 準備はOKのようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る