第6話 試験飛行は共同で
「これで乗れるけど、試運転はどうする。なんなら最初は俺がやるけど」
香緒里ちゃんはゴテゴテした自転車、という感じの試作品を観察する。
「ここは荷物置き場ですか」
シートの後ろ、後部を覆うカバーが少し平らになった部分を指さす。
「そう、一応ちょっとは物を積めないと不便かなと思って」
「ならここに私が乗っても大丈夫ですね」
えっ?
俺が思っても見なかった言葉を聞いた。
「浮力は前後に重りを目一杯積めば大丈夫ですよね。確か体重120キロでも大丈夫な設計の筈ですから、私さえ乗れれば二人乗りもできますよね」
おいおい。
少し待ってくれ。
「どうせ私と先輩の共作ですし、一緒に乗りませんか」
そう言われてしまうと、俺も断りにくい。
強度上も他の設計上も確かに問題は無いのだ。
しょうがないか。
「じゃあ乗ってみるか、二人で」
「わーいです!」
しょうがないな、と俺は思いつつ重りを用意した。
2人で乗る計画ではなかったので、発進はちょっと手間取った。
① 荷台とカウルの上に10キロの重り2個を乗せる。
荷台に後ろ向きに香緒里ちゃんが乗る。
② 前かごに10キロの重りを載せ、前後の係留用チェーンを外す。
この段階では重りの重さと香緒里ちゃんの体重で試作品は浮き上がらない。
③ 俺が10キロの重り2個を持って乗る。
④ 2人で声を掛け合って、前後同時に浮力用スペースに重りを入れる。
⑤ 香緒里ちゃんが後ろで器用に回って前を向いて俺の体に手を回す。
これで発進だ。
「左グリップで上昇下降を調節」
自転車改造の試作品の左グリップを手前にひねるとすうっと空へと舞い上がる。
「あ、飛びました!」
「全速で重力加速度の2割位の速度で上昇可能かな。降りるのも同じ位」
4階建ての校舎を見下ろせるくらいまで上昇する。
「後ろは大丈夫。不安はない」
「車輪が回らないから足をフレームにかけられるし大丈夫です。それにこうやってしっかり掴まっていますし」
ぎゅっと俺を抱きしめる感触。
おいおいまずい、胸が絶対当たっているぞ。
そう思えば当たっている部分が熱く感じるような気がする。
まずいまずい。
相手は年下の幼馴染だ。
風呂だって一緒に入ったことがあるぞ。
十年以上前だけど。
何とか無理やりその辺の生理現象等も押さえ込む。
「じゃあその辺を回ってみるか」
「お願いします。空中散歩です!」
俺は自転車の右グリップを握る。
「右グリップを握れば前進、反対に回せば後退になる」
液体窒素が気化されて後方へと噴射される勢いで自転車は前進する。
それ程速度は出ない。
せいぜい20キロ程度。
のんびりと試作品は前進する。
「ハンドルを切るとそっちへ曲がる」
普通に自転車のハンドルを切るのと違い、若干こじるように曲げる。
空中では地面が無いのでフラフラしそう。
だからバネで手を離せば程度直進するようハンドルを調整しているのだ。
ハンドルを右に切る。
後輪右後ろの噴射口から気化した液体窒素が噴射。
すっと向きが変わる。
それでも姿勢は崩れない。
設計通りだ。
電子工作の友アルドゥイーノで姿勢制御している成果が出ている。
加速度センサーを使用しているので前進すると後ろがちょっと上がるし、左右それぞれに曲がるとそれに合わせて傾斜する。
でもそれがかえって安定性につながっている感じだ。
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