第2話 武勇伝は聞かせない

 国立魔法技術大学のカフェテリア。

 施設こそ大学内にあるが、実際には住民全般、大学教授から幼稚園児まで普通に使っている。

 ここがこの島にある数少ない喫茶店その2だ。


 なお香緒里ちゃん、今回からは俺のことを長津田先輩と呼ぶことにしたらしい。

 同じ学校同じ学科の先輩だし、修兄と呼んでも他人に通じないからだそうだ。


「どうしたの、今日は?」

 俺は女子は苦手だ。

 でも香緒里ちゃん相手なら幼馴染で年下だったこともあり普通に話せる。


「今日いきなり課題が出たんです。空を飛ぶ魔道具を作れって」


 なるほどな。その課題は俺も昨年体験したから知っている。


「実際に作らなくても概念設計だけでいいんだろ。去年は自分の魔法を使った空飛ぶ絨毯なんてしょうもない案を図にしただけでもOKだったし」


 彼女は頷く。

「でもどうせなら私の力でちゃんと飛べるものを作りたいです。それに先生は製作に上級生の手を借りてもいいと言ってくましたから」


 その姿勢は物作り関係に携わる者として正しい。

 ただ、ちょっと悪い予感がした。

 昨年俺がやらかしたある出来事が頭をささっとよぎる。


「まさかと思うけれど、先生に俺の名前出していないよな?」


「誰かあてがあるかと先生に聞かれたので長津田先輩の名前を出しました。そうしたら何故かわからないけれど先生だけでなく助手さん全員も思い切り受けて、『奴ならとんでもないのを作れるからまあ頑張れ!』と励まされてしまいました」


 遅かったか……

 俺は頭を抱えたい気分になる。

 でも彼女の前だし人目もあるので何とか平然を装うけれど。


 俺が昨年作ったのは一人乗りの超小型ヘリコプターだ。

 作るために俺の魔法を容赦なく使ったが、飛行に魔法は一切関与しない。

 浮上用の大きいプロペラも姿勢制御用の後部プロペラも全てセンサーに繋いだアルドゥイーノで自動制御。

 バッテリーを完全に充電すれば10分程飛行が可能という我ながら優れものだ。


 でもこの作品は先生方の意図とは思い切りずれまくったものだったらしい。

 先生方は『魔法を使って空を飛ぶ』道具を作れと言ったつもりが、空を飛ぶ道具を『魔法を使って作って』しまったのだ。


 幸い先生方にはちゃんと最高評価をいただいた。

 この勘違いと物自体の完成度の高さが逆に受けたのだろうか。


 その上学校による買上げ措置もされて俺の懐も潤った。

 出来の良い魔道具等には時にある措置だが、魔法不要な機械としては初らしい。

 更に実用性を認めて商標パテント取りまでしてくれた。

 おかげで小遣いに不自由しなくなった。


 ただしその代償として。

 先生方から『あの長津田君』と『あの』付きで呼ばれるようになってしまった。

 栄光と汚点を一気に詰め込んだような俺の思い出である。


「その代わり、先生に意味のわからないアドバイスをされました。今度はちゃんと魔法を使ってね、と。どういう意味なのでしょうか?」


 俺にはわかる。

 ヘリコプター2号機は作るなよ、という意味だ。

 でもそれを香緒里ちゃんに聞かせる気はない。


「つまり香緒里ちゃんの魔法を使って空を飛ぶ道具を作れということだろ」

 そうごまかすことにする。

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