白馬の妖精の一日 完結版

閉口世界

第1話 白馬の妖精の一日完結版

        白馬の妖精一日の完結版 


                   閉口世界


(第一話)


私は白馬の妖精です。


名前は文文(カナブンのフェアリー)


今、繁華街のバーで飲んでいます。


深夜一時ーー。


「ケッーーー何だこいつ」


隣席の豚です。


明らかに、上目遣いとなり眼を放っている!


しかし、私にもプライドありますからーー。


「死ねっ」と言いました。


すると、豚はすぐに飛びかかって来ました!


「ブヒッッッッッッ!ブヒブヒッ!!」


首を絞められながらも、悪魔さんを呼びました。


「ドドドドドドドドドッ!ーーーーーー」


かなたから地鳴りが轟き始め!地中深く魔物が突き進んで来ました!


わたくしの悪魔の登場です。


「ドッカァァァァァーーーーーンッ!!」


床をぶち破り店内へと上がって来ました。


体がごつく、身長は三メートル以上ありますので、頭部が天井を突


き破っています。


店内はブチ壊れた床板やら天井板、鉄筋等が散乱しました。


豚は既に失神していましたが、悪魔さんは言いました。


「殺っていいのか?」


「殺れ!」



(第二話)



昨夜は本当にまいりました。


突然、吹っ飛んだ飲食店ビル目がけて、


パトカーやら、救急車が沢山きやがってーーー。


でも私達は直ぐに透明化しましたので、職務質問されるはずもあり


ません。


その後は悪魔さんとは違う店で飲み直していました。


そして、夜明けとなり、朝帰りとなったのです。


悪魔さんは、夜明けと共にその姿がフッと消え失せてしまいました。


いつもの事です。


私は仕方なく始発の環状線へと乗り込みました。


ーー意外と都会の始発電車はガラが悪い。


早出の人達が通勤の為に乗車しているのかと思ったら、大半が朝帰


りの飲んだくれ者達ですから。


しかし、もう乗ってしまったのだからどうしょうもない。


ふと見ると、向かいの座席には、片方の靴が無い御紳士が座席をベ


ット代わりにスヤスヤと眠っておりました。


私は何の悪気もなくその御紳士の夢の中へと侵入することにしまし


た。


「ビィュュュューーーーーインッ」


入ると、そこは思いのほか田舎街でした。


そうしてブンブンブンッーー!と真一直線に飛び始めたのです。


暫く進むと突然、広大な田園が開けました。


こいつの夢の中は、何という美しさーーーでしょうか。


本当に素晴らしい!!


深い緑と、澄み渡った青空、遠くにはお椀をふせたような形良い山


があり、五百メートル以上はあろう不思議な形をした高圧鉄塔が何


基も見えています。


この景観に思わず、地面にフワァァ~~と着地しました。


すると偶然、直ぐ先の道ばたに見知らぬ男が座っておりました。


男は私の顔をじっと見ていますが、その目は決して笑っていません。


私も目を逸らさずに、じっとにらみつけました。


どれくらいにらみ合ったでしょうか、私は気をとり直して「こんに


ちは!ブンブン!」と先に声をかけました。


続いて、私がたわいもない世間話を始めると、男は「ここでは、何


だから」と言って、私を家の中に招き入れました。


そして、私を純銀製のテーブルに着席させると、純金製の皿に優雅


に盛り付けられたとても可愛いらしいチョコレートを運んできてく


れました。


「これは芸術の国クタリヤの友人が送ってくれた素晴らしいお菓子


です、妖精のあなたに是非食べていただきたい。」


私が妖精としての礼を言い、それを美味しくいただこうとした時、


突然、別の男が奥の部屋から出て来て、チョコレートを親指でつぶ


しました。


と、突然!先の男も可愛らしいチョコレートをつぶし始めました。


「グッニュウーーッー!」 「グッニュウーーッー!」


後から出て来た男は、何か衝動的に、この可愛いチョコレートをつ


ぶしたくなったに違いありません。


「一体っ!何事が起こったんだっ!」


私は、泣きべそをかきました。


しかし、男のとった行動のわけがどうしても知りたくて、さっと!


奥の部屋に無断で侵入したのです。


すると、中にはおびただしい数の、監視モニターが並んでいました。


何とここは、ゴミの不法投棄監視所だったのです。


私は彼らに言いました。


「お前らも大変だな、あまりストレスを溜めんなよーー突然おかし


くなるからーー」


しかし男達は何故か無言でした。


そして何故かトイレ前で順番を待つかのように2列横隊して突っ立


っていたのです。


その姿は、まるで役目を終えた操り人形のようでした。


つまり不自然な格好で、完全停止していたのです。


私は気持ち悪く思い、玄関前まで出ました。


そして、羽根回転のスイッチを入れると、金ブンのように、ブンブ


ンブンッ!と大空に躍り出たのです。



(第三話)



その串揚げ屋は高速歩道線(高速型ムービングウオーク)高架下に


あります。


人気店だけあっていつも満員です。


私(妖精)は、豚の魂、タマネギの魂、イカの魂。


取りあえず、三本の魂揚げを注文しました。


店員のろくろっ首女をくどこうとしていた、正義の味方、クルトラ


背ブンに酔った勢いでついつい言ってやりました。


「おたくの家族らーーー怪獣やつけた後、いつも何処に捨てとるん


や?!えっ?」


「ひよっとして毎回、毎回、七つの海へと捨てとるんかっ?!」


「おいっ!図星よなのかよ!っ!」


お子ちゃまの味方は、とにかく通報はしないでくれと揉み手すりし


ましたのでーー。


私が持っていた、おもちゃの手錠を彼の両手にはめ、仮面をはぎ取


ると彼は普通の人間と全く同じ喧嘩能力しか出せなくなりました。


しかし、妖精はお人好しが多いーー。


奪った仮面はコピーした後、宅配便で必ず家に送ってやると言うと


ーー。


クルトラは、それは先代からの正義の仮面だからと困るとひつこく


食い下がりました。


なのでもう一度だけ、念押ししときました。


「だから、現物はちゃんと返すと言ってんじゃんかよっ!!」


すると、彼は半狂乱になったまま店外に迎えに来ていた、渦めく光


の中へと消えていきました。


今回、ぶん取ってやった仮面は、私にしてみれば宇宙最強の武器とな


るはず。


私はのっぺらぼうの大将に、景気よく天井値の揚げ物ばかり追加注


文しました。


大型ジョッキの残りを一気にグビッと飲み干すと、フワフワした気


分で店を出ました。


そして、ダッ!とジャンプすると、真上のアーケードをボンッ!バキ


ッ!と突き破り、繁華街の星空へと舞い上がったのです。


「ふわ~~ふわ~~」


上下に心地よくと浮き沈みするのは、本当に気持ちが良い。


しかし背中に生えている羽は毎分一万回転もしているので、ブーン


ブーンと少しうるさい気もします。


「ビリッッ!」


この日は休日で辺り一帯に、日の丸の旗が立てられていました。


なので、ついでに空中庭園ポールから一旗しっけいしました。


「パタパタパタパタパタ~~~」


腰蓑状に括り付け、日の丸をばたつかせしばらく飛ぶと先に金襴豪


華なお城が見えてきました。


天守閣からは、七色のレーザービームが立ち上がり、夜空に見事な


文字を描いています。


《キャバレー安心明朗館》


私は、総額五千円なら入ってもいいぞと、ブーンブーンと飛んでい


きました。


五分ほどで到着しました。


そして、ちょう ど入り口上空から携帯電話をかけました。


「二時間、五千円ポッキリだと入るけど、大丈夫かよ?」


しかし、話し終わらないうちに、入口にいたドアマンがマシンガン


をぶっ放してきました。


「バババッッ!!!バババッッ!!バババッッ!!!」


下の方で親分が撃ち殺してしまえと、ドアマンに言っているのが天


空からはっきりと聞こえました。


だが、妖精としてはこんなマネはとてもじゃないがーーー


私は、即座にキラー衛星にミサイル発射指令を送りましたが、残念


なことに今はちょうど地球の裏側を回っていました。


攻撃開始時刻まで二時間はかかりそうですし、キャバレー城自体が


何と常に街中を移動していやがるのです。


市街地を移動しているキャバレーだけを正確に攻撃するのは至難の


業です。


私は、「ちっ!お前ら、命拾いしたなっ!」と一人叫びました。


そして、ブーンブーンと、今度は月めがけて飛んで行ったのです。



(第四話)



自力で飛んでいると、一体何時、月へとたどり着けるのか想像もつ


きません。


そこで月面基地に向かっていた、宇宙飛行士の意識の中に潜伏し、


月まで同行することにいたしました。


到着すると、不規則に建造され何処までも伸び続ける月面都市にゴ


ミはぜんぜんありませんでした。


それに地球ではちょうど太古に生存していたような、見たこともな


い動植物が月面都市の至る所に見られます。


私は、ティラノザウルスに気づかれないようにしながら、足上げ小


便をしている動物を見つけると、麻酔銃で狙いを定めました。


「ドンッ!」


鈍い音と共に麻酔の注射器が発射されました。


しかし、注射針は獲物には刺さらず折れ曲がり、跳ね返されました。


あいつの外面は柔らかい素材だが、ボディはきっと超合金製に違い


ありません。


つまりロボットなのです。


「しまった!」


この時、油断していました!


発射音に敏感に反応した、ティラノザウルスが突然、襲いかかって


来たのです!


追い詰められた時は、慌てると逆効果。


少しでも奴の注意を逸らそうと、ゆっくりと麻酔銃を足元に「ポン


ッ!」と軽く捨て置きました。


「フンッ、フンッ」


奴が臭いをかくような動作をしていますが、実は識別センサーでど


んな、何の為の物体なのか判別しているのです。


私は急いで月面自動車のダッシュボードから、クルトラ背セブンの


マスクを取り出しました。


あの串揚げ屋の一件後、既にあいつからはクルトラの変身権を脅し


取っていたのです。


「バリッ!バリバリッ!」


月面自動車は奴に喰われ始めています!


マスクを被ると「クルジョワッ!」と叫び大きく片手を掲げました。


1秒を争う大事な時でしたがーー。


何とか無事に身長30メートルのクルトラに変身しました。


そして、いきなり破壊力抜群の超高圧放電弾をメカティラノに向け


放ちました!


「ヒイィィィーーーンッ!ーーーグルッグルッグルッ!ーーーバシ


ュュュンッ!」


投網状となった、青白い超高圧エネルギー魂は怪獣の廻りを激しく


周回した後、奴の視覚の隙を突いて背後から突っ込んで行きました。


しかし奴は、振り向きざまに身をかがめエネルギー塊を遠方へとや


り過ごしたのです。


「ウギャャャハッハッハッ!!バサッ!」


奴が笑い出しました


「ブッケケケケケケッッッ!!」


くそっ!メカティラノの身のこなし方は予想以上に素早かった!


「ここは一旦はトンズラした方がーーーー」


「!?」


しかしここで、もっとも驚いたのは、いつの間にかこの戦いをテレ


ビ中継車が生撮影しに来ていると言うことでした。


一体どこから来たのか、酸素タンク付の宇宙服を着た野次うま根性


達も大勢集まり始めました。


録画中継されているとなると、男っ振り無しの場面だけは何とかさ


けたい。


「サッ!!」


とっ!突然!テレビ中継車や、野次馬達が次々と砂の中に潜り始め


ました。


その姿はまるで、敵から身を守る砂ガレイやシオマネキのようです。


月の平和を守る為、取締当局隊が騒ぎを起こしている我々を掴まえ


に来たのです。


きっと誰かが通報したのに違いありません。


まずいっ!!


そう思っている時に、何者かが私の足首を「グッ!」と掴まえ、砂


の中深くへと強引に引っ張って行きましたっ!


息がまったく出来ないので意識が遠のき、私は自身がてっきり息絶


えたものばかりと思っていました。


そして、しばらくし砂の中から大きく飛び出しました!


私は、私よりもっと大きな巨人の口の中から、「ペッ!」と吐き出


されたのです。


突如として現れた巨人は恐らくは妖精王国の縁者かと思われます


が、何故か目も合わさずそして一切無言でした。


少し、へんこな奴だから、もうほうっておこうと思いただただ一


方的にお礼を述べました。


「ドッバァァァッッーーーーンッ!」


彼は直ぐに砂の中へとまた去って行きました。


私は、月面上にあらためて立つと、両手で衣服に付いた埃のような


砂を「パンッ!パンッ!」と払いました。


部隊は既に引き上げており、それを確認してから土の中から何かオ


ウムガイのような生き物がひょいと現れました。


月の土中にいる原始的な生命体です。


そして、彼からティラノザウルスだけが何処かに連行されて行った


と聞かされたのです。



(第五話)



何時しか、真冬の季節となっていました。


この寒い最中、季節外れと言うべきなのか悪いゴーストを始末して


くれと言う依頼が突然入ったのです。


場所は京都市内にある超高級ホテル(素泊まり四万円)ーー。


一月二十日。


超高速歩道(国営大規模ムービングウオーク)駅は地下三階の位置な


ので暖かですが、地上に向かうにつれ冷気の流入がとてもきつくな


ります。


出口すぐ横には鴨川が流れおり、流水は氷水のような状態です。


AM七時。


あまりに早く着きすぎたので、川沿いマホカナルドでコーヒーを飲


む事にしました。


一階席はすでに満席でした。


仕方なく、階段を二階に上がりました。


見ると、入り口ドア両端に燦然と輝く光のテーブルがまるで門柱か


のように二つ並べてあります。


そしてそれぞれのテーブルの上で、ミニスカートを穿いたレディが


二人、神社の狛犬そっくりの構図をとっています。


二人とも、まるで京劇に出てくる主役かのように、顔には色彩色豊


かな化粧をたっぷり施しています。


道理で一階が満席のはずーー。


両サイドに、この異様な光景を目にしながら店内に入るのは、はっ


きり言ってけっこうな勇気がいります。


私は、一番奥のボックス席に座ると彼女達が演じる、あの不可解な


置き物のことは見て見ぬふりをしました。


恐らく何らかの化け物に憑依されているのに間違いはありません


が、何しろ今夜から私には一泊四万円の高級部屋待遇が待っている


のです、少々のことは眉をひそめるだけで済ませます。


店内には、あれをくぐり抜けてきた他二名が私と同じように朝の食


事を楽しんでおりました。


一方の男は、たぶんお相撲さんではないと思いますが巨体であり頭


にマゲを結っています。


天井スピーカーからは、出勤時間で慌ただしい、ちまたの朝には不


似合いとも思える、ハイテンポのクラブビートが大音量でBGMと


して流れています。


内一人が?


何かに気づいたかのように突然、腰を上げると私に近づいて来ました。


恐らくは、喋らずとも私の正体を見破ったのでしょう。


いきなり、の名指しでした。


「あのっ!失礼ですがあなたは、ゴーストバスターの文文(ブンブ


ン)さんなのでは?」


「はいっ、そうですが其方はーー?」


「私もあなたと同じ、あの高級ホテル化け物退治に雇われたゴース


トバスターの戻松です」


「ゴーストバスターって?ーー私だけが雇われたのではないのです


か?」


「いやーー、雇われたのは複数人です」


「ええ!?」


彼の話を聞いてびっくり!しました。


ホテル側は、何と七名ものゴーストバスターズを雇っていたからで


す。


理由は、大勢の侍霊能力者達を一気に手配し、この一ヶ月間以内で


ホテルに住み着いている何らかの悪霊に何としても退去願いたいと


言う事らしい。


しかし、幽霊以上に恐ろしいのは、その七名が狭いシングル部屋で、


これから一ヶ月間、共同生活をしなければならないと言う事でした。


「経費節減と言ってもーーーそんな、むさ苦しい状況で寝返りも打


てず、一睡も出来るはずが無いじゃんかよっ!」


「それじゃ!タコ部屋の方がましだっ、こんなんだったら別件の怪


獣退治の方を選ぶべきだった!」


「えっ?怪獣退治ですか?」


「い、いやっ!別に何でもない、子供達のまま事遊びの話だっーーー」


「ーーーーーー」


「まぁまぁーー、せっかく此処まで来られたのですから、ここは一


つお力添えを」


「むむむむっーーー」


ホテルは駅から比較的近くの所にありました。


「テクテクーーーテクテクーーー」


二人で黙りがちに、ついにその外観上は高級感溢れる景観を帯びた


問題のホテルへと到着しました。


私はどんな奴(悪霊)が悪さしているのか、ホテル内全域を霊視し


てくるので、先に部屋に行ってくれっ、と言いました。


しかし、彼は既に隊長は決まっていて、直ぐにでも部屋に向かわな


ければならないと言います。


「隊長がいるのですか?ーー」


「そうです」


「じゃ仕方がないーー」


一緒に部屋に入ると、既に隊員(ゴーストバスター)達の役割分担


は決まっており、今夜の私の役目は夕食の買い出し!


と、いきなり開いた口が塞がらないような命令を出されました。


「じゃ、行ってきます」


ホテル側から弁当ぐらい出せよ!


私はブツブツ言いながらスーパーへと買い出しに出かけました。


七人分のなので、両手の買い物かごも見る間に山盛りです。


レジに向かうと、今まですごく空いていたのに、突如として行列が


出来つつありました。


その上理由がよく分かりませんが何故かしら、すべてのレジでレジ


打ちと客が世間話に興じ笑い話に花を咲かせています。


「ウハハハッ!フヘヘヘヘッ!イヒヒヒヒッ!ーーー」


列の長さは、次第に十メートル以上になろうとしていました。


とうとう、辛抱しきれなくなった「早くっ!せんかっ!」との、客


達の怒号があちこちで巻き起こり始めました。


しかし、ついにその長さが十五メートルに達した時点で、皆の緊張


は一気に崩れ出しました!


一番後ろに並んでいた被害者的意識に目覚めた女が、我慢しきれ


ずに買い物かごを持ったまま反転!店口から飛び出たからですっ!


「いつまで待たすんやっ!!」


あばずれ女の捨て台詞は当然っ!と皆は頷き合いーー。


警備員が彼女を掴まえる動作に入ったように見えましたがーー。


それに続く約二百名全員が洪水のようになって駆け抜け始めた為、


その姿はいつの間にか、かき消されるようにして無くなりました。


警備員も何らかの事情で一緒に逃げたのか?それともあれは経費節


減の為のただの3Dホログラムダミーだったのか?


私は、不思議に思いましたが、逃げる途中の老人がゲラゲラと笑っ


ているのを見ると、迷わず一緒になって走り始めました!



(第六話)



二日目の朝がやって来ました。


我々隊員七名はこの恐ろしく狭い、シングル部屋で待機(我慢)して


いました。


しかし、よくよく考えれば私は妖精なのです。


いくら報酬が良いとは言え、私のシスターでもあるゴーストを始末


することは気が引けます。


私は途轍もない息苦しさ、悪臭で包まれた部屋から少し出ようとし


ました。


すると、背後から勝手な行動をするはやめてくれっ!と言うリーダ


ー(隊長)の声がしました。


「一体どう言う事ですか?!」


私は、この部屋に軟禁されているような気がしてならなかったので


す。


「我々は、今こうして、ここで同じ釜の飯を食っている!」


「幽霊を始末できようが、出来まいが一ヶ月間さえたてば、報酬の


五十万は必ず銀行口座に振り込まれるんだ!」


「私は賢いリーダーとして、チームワークを最優先する」


「つまり、私の指示は絶対であり、勝手な個人プレーは今後、一切


禁止する!」


私たちは、ゴーストの探索どころか、一切部屋から出ることを禁じられました。


そうなのです。


このホテルに住むゴーストは頭が良く、かなりの強者のようです。


一条松の戦いのように、多勢の敵にたった一人で挑むには総大将の


首を狙うのが一番です。


隊長はすでに、かなり手強いであろうゴーストに憑依されているの


です。


しかし、今はその確証をみんなに、示すだけのはっきりしたデータ


ーを示せません。


私はこの生き地獄の中で、リーダーの体内に侵入しているシスター


と近々、一戦まみえる事を覚悟しました。


三日目に入いるとーー。


リーダーは部屋内のトイレと浴室に、立ち入り禁止の張り紙をし、


鍵をかけました。


「クソッ!隊長は一体?何を考えているのだ!」


「うるさいっ!」


「極地でリーダーに従うのは、バスター(隊員)の常識だろうがっ!


我々はあくまでも命がけなのだっ!」


ゴーストバスターズが次々と発狂しだすのは、とうとう時間の問題


になりました。


皆はペットボトルを改造したおまるの中に排便しつつ何とかしのい


でいましたが、辛抱しきれなくなった戻松さんはいがいとあっさり


とベランダに出て小便を始めました。


真下にあるガーデンテラスのバーベキューコンロにそれが降りかか


り煙がひどく立ち上がったようですが、祝宴客達は不思議と誰も気


付きせんでした。


夜中になるとさすがに皆は、疲れきり座ったまま眠りだしました。


みんなが眠るのを見計らってい、内一人がまるで爆雷装填完了した


かのように、直ちに投棄せよ!と訳の分からない事を呟きながら布


団の中に便を排出する者がいました。


私はその臭いにたまらず、クルトラマスクをバックの中から素早く


取り出し被りました。


「クルジョワッ!!!ーーー」


「ゴゴゴゴゴゴゴゴッーーーーー」


部屋の天井全体を六回、吹っ飛ばし続け!私は30メートルの大き


さになったのです。


全館で非常報知器が鳴動し!館内から直ちに避難を促す緊急放送が


流れ出しました!


警備員が大声で叫んでいます!


「マグニチュードは10は軽く超えとるぞっ!!!」


「まだ、テレビでは何にも放送されませんっ!」


「大変な被害だが!お客様達は!ひっとしてーーー全滅かっっ!!」


私は崩れた、正面玄関ロータリーで瓦礫を土俵型に寄せ集め終わる


と、「シスター(妖怪)「出て来いっ!!」と言う挑戦状プラカード


を掲げ上げました。


「このホテルを乗っ取っている、亡霊出て来い!今こそ決戦の時


だ!」


「シーーーーーン」


しかし、いくら待ち続けても、住処が木っ端みじんに大破壊された


以上ーー亡霊は何処かに行ってしまったーーようでーーとうとう現


れませんでした。


夜明けになり、多くの消防車やパトカー達も一端去っていきました。


私は、面白くないとばかりにしゃがみ込んで石遊びにふけりました。


「妖怪はもうおれへんのか?ーーぶつぶつーーー」


そして、自分の身体の大きさ(三十メートル)のことはてっきり忘れ、


小石を何の気無しに遠くに投げました。


ところが、それがたまたま飛んでいた航空機に当たり、見事墜落し


ていきました。


「ドドドドドッッッンッーーー!」


これには、はまりました。


それからというもの、次々と上空の獲物(航空機やヘリコプター)を


狙っては石を投げ続けました。


二時間ほどたつと状況は劇的に一変しました!


航空自衛隊の最新鋭戦闘機やアパッチのバルカン砲が、まるで蜂の


巣を突いたかのような勢い雨あられで襲いかかって来たからです!


「バババッ!ドドドドドッッッンッーーー!!」


しかしながら、クルトラセブンブンが最大の武器とするクルトラ感


電弾超高圧放電はやはり優れものでした。


凄まじい程の数の、ミサイルやら砲弾も、空中に大きく広がった雷


状の超高圧放電魂によりことごとく爆破され続けたのです。


「残念だが、お前らのへなちょこ兵器では、私は倒せないーーー」


そう言ってやると、奴らは意外にあっさりと空中でUターンし引き


上げ始めましたーーー。


がしかし、彼らの次の作戦はーー米国海兵隊に緊急要請を行う事。


当然ながら、トマホーク搭載中性子爆弾で再度アタックをかけて来


る事も有り得る。


「シーーーーン」


嵐の前の静けさ。


物音一つしないことから、みんながみんな避難してしまっている事


に気付きました。


恐らくは半径五キロメートル以上に渡って誰もいないのではないで


しょうか。


「ーーーーーー」


私は、現在の状況からしてちよっとやりすぎじゃねえのか?と思い


つつ、やってしまった事に対して今さら、言い訳は考えませんでし


た。


犯罪者側の立場に生まれて初めてなってしまったのです。


「お前ら全員!吠え面かいちまったのかよ!」


自衛隊機達が去っていった彼方の大空に向かって、そう罵声を浴び


せている最中でした。


後ろからいきなりマスクをはぎ取られてしまったのです。


そこで、夢は覚めました。


「ホッーーーー」


本当に良かったーーー。


私は人殺しではなかった。


ところで、ここはーーー。


完全にベットの上で目が覚めてきました。


昨夜、夜遅くまで電話をしていたのです。


内容は高級ホテルに出るゴースト退治の仕事でした。


しかしながら、断りました。


その後、酒を飲んで寝入ってしまったのです。



(第七話)



あのホテルは、私(妖精)の夢の中と言う特殊な場所でした。


私は、現実界と夢世界を自由に行き来できるのです。


なんて事を言うとーーー皆様は妖精の一日は非常に楽だと思われる


かも知れませんが、そんな事はありません。


我々は、クロマグロまでとは言いませんが一日の大半をドンドン、


ブンブンと飛び続けなければ生きてはいけません。


立ち止まると、大王の命により、たちどころに金ブンからハエなど


の害虫妖精部類へと格下げさせられ魔力が使えなくなるからです。


出来れば、大王直轄のクワガタ閣下や、カブトムシ大将軍まで大出


世したいところですがーー。


「ブーンーブーーンブンブンブーーーーンッ!!」


今飛んでいる所はーー。


何者かの夢の中にまだ誕生したばかりの都市です。


ここへはランダム(行き当たりばったり)マシンで移動してきまし


た。


着地したとたん、突然!目の前に空高く一本のポールが現れました。


それ伝いに、スルスルと黒いマントを羽織った悪魔(サタン)の仲


間らしき男が降りてきて、一本の黒いつえを脇に抱えるようにして


「ポンッ!」と降り立ちました。


私に気付くと、かるく片膝を落とし深々とお辞儀をしました。


つえの一番先には、直径5センチほどもある巨大なダイヤモンドが


ついています。


まさしく一昔前、架空(SFドラマ)の国から人々に感動を与えたあ


の悪魔にそっくりでした!!


私は長いチョビひげを生やした姿にたいへん感動いたしましたー


ー。


男は言いました。


「ハハハッ!私は残念ながら本物の悪魔ではありません!」


「ハハハッ!私と、どうぞ友人になって下さいっ!」


目の前の男は悪魔によく似てはいますが、あくまでも偽物なのです。


一体?何処の世界から来たのでしょうか、皆目検討もつきません。


少しうさんくさい奴だとは思いましたが、これも何かの縁だと考え、


男と同行することにしました。


「ああだのーーこうだのーー」


いつものように、たわいもない世間話を始めた途端、何故か男は会


話をピシャリッ!と遮りました。


「私は、世間話は大嫌いです!ただし、それ以外の会話には、応じ


させていただきます」


(何か変だぞこの男っーーー私はそう思いました)


初対面の態度とはまったく異なり、本当は全く心優しい男ではなか


ったのです。


会話が自由に出来ないのには、たまげました。


「何だ?ーーあの連中ーー」


ところで、街の至る所に一つ目をした小僧がいました。


私は、巨大建築物前の花壇に腰掛けていた、一つ目小僧に挨拶しよ


うとしました。


がしかし、男は慌ててそれを制止しました。


「こらっ!駄目だっ!話しかけちゃ」


「えっ?ーー」


「あの人達は、これから敵国に総攻撃に行くんだからーーー」


「エエッ!一体?何処の国と戦っているんですか?!」


「そんなこと、俺がいちいち知るかよっ!何処だっていいじゃない


かっ!そんな事は余計なお世話なんだよ!」


「俺たちが、ここで、ああだのこうだの、あいつらに言ってあげて


も、どうにでもならんだろ!」


「それとも、お前が代わりに出撃するかっ?」


「えっ?!一体どうなんだっ!」


「だからなっ!今は、あいつらをそっとしておいて、やるしかない


んだよっ!ーーー」


街のあちこちには、無数と言えるほどの一つ目小僧がたっていまし


たが、よく見るとそれは人形です。


しかし、外観上悪魔そっくりの黒マントの男の表情は真剣そのも


ので、私としてはまったく納得がいかなかったのですーーー。


その後、私は半分仕方なくと言う感じで、男と一日中、歩き続け


ました。


いくつもの高層ビル群を過ぎると突然、前方が大きく開け、広大な


宇宙港が現れました。


大小様々な宇宙船が何百機も並んでいます。


まだ、かなり遠くの方ですが明点する雷鳴と共に、大きなキノコ雲


が何発も上がりました。


「今一日(歩)遅かったようだーーー」


「この国がもたもたしているから、先に爆撃され始めやがった」


「いったい!それはどう言う事なのですか(驚)?!」


私は、次第に大きくなる爆発音からただならぬ気配を感じ取りまし


た。


「馬鹿野郎っ!理由も糞もあるか!たった今、敵が攻め込んで来て


いるんだよ!」


「おいっ!あの宇宙港で宇宙船をかっぱらって脱出するからな!い


いな、分かったな!」


私は、こうなればもうそれしかないだろうと同意しました。


「それじゃ、急がなければなりませんねっ!ーー」


私達は、ぎりぎり間に合ったとばかりに狙った宇宙船のタラップを


駆け上りました。


入り口ドアを開けて驚きました!


中身がベニヤ板だらけで操縦席も何も無いからです!


「くそっ!きっとジョーカー(ピエロ)の野郎だっ!」


「俺たちは道化師に、からかわれているんだよ!」


「こうなると、攻め込んで来ている戦闘機も幻影かも知れんがーー


ーひよっとして本物かも知れん!」


「まあいいーーー取り敢えずは、使える船を探しだすんだ!」


「どうします!何百機、次々とあたっていきますか?!」


「早く探せっ!見ろっ!もう一番機が上空を通過していくぞーーー」


我々は、ついに本物の宇宙船を見つけ出すと、敵機を蹴散らすよう


にして急上昇しました。


「ゴオーッーーー!!!」


数分後、大気圏を出たところで、男は言いました。


「お前は操縦は出来るか?」


「いいえ、まったくの初めてです」


「じゃ、役立たずと言う事だなーーー」


「ーーーーー」


「もういい!ーー何で突然、黙るんだよっ!何んでもいいから俺に喋りかけろっ!」


「それと、今後は必ず俺の目を見て喋るんだっ!いいなっ!分かっ


たら返事をしろっ!」


「スックッ!(座席を立つ音)ーー」


私は、こいつはやはり頭がおかしい奴だとばかりに、コックピット


を勝手に離れたのです。


「カツ!カツ!」と重力ブーツの跳ね返り音だけを響かせながら後


部区画へ歩いて行きました。


宇宙船は航空機とは桁外れに区画壁が分厚い為、エンジン音はまっ


たく聞こえません。


私はトイレに入りました。


室内は総クリスタル張りの豪華さでした。


「ガチッ?ガチッ?(開かずの扉)」


この船に乗っているのは二人だけの筈なのに、個室の入り口の取っ


手が何故か開かないっ。


壊れているのかと慌てました!


力任せに思いっきりっ、引っ張ると!少し手が見え隠れしていま


す!


中から何者かが、扉を開かせまいと引っ張っているのです。


「ギョッ!」としましたが、あいつ(騎士)に報告すると余計面倒な


ことになるーーー。


私は意を決して、「お前は誰だっ!」と言いました。


しかし、どうしても、出てこないので扉下の隙間からのぞき込んだ


のです。


赤いブーツを履いています。


紅白のチェック柄のダボダボのパジャマがきらめく床大理石へと写


っています。


やはり道化師が中に入っていました。



(第八話)



私はピエロに


「まあーー出て来いや、ランチでも食いに行こうーーー」


と言いました。


私はポケットに入れておいた次元移動ロボットに検索させました。


ロボットはとある惑星の下町のオフィス街を指定しました。


男とはこれでお別れです。


「ワァァッッーーーーーーーープッ!!」


次の瞬間、ピエロと私は、大都市のビジネス街を歩いていました。


様々なビルにはいろんな定食屋が入っています。


私達が歩いていると、チケットを配っている、動物の着ぐるみ姿の


者達が交差点前に大勢立っていました。


それはすし定食のただ券でした。


私たちは、その店に入りました。


「へいっ!らっしゃーいっ!!」


「飲み物は!どうします大将!」


「じゃビールをもらおうかーー」


店の大将は言いました。


「ピエロ姿のお客さん!ジェラシックワールドに出演している方で


すねっ」


「まったくにして、本当、あそこに行くと猛烈にエンジョイできま


すな、ガハッハッ!」


「へいっ!お待ちっ!」


私たちは、寿司を食べ終わりました。


「おあいそっ」


「はいっ!七百円どうぞ」


私はビール代金の七百円を受け取るとポケットにしまいました。


「へっ!そうかーーーここの街は店で何かを買うと、その分の代金


をくれるんだ(驚)ーー」


私達は喜び勇み、次々にトンカツ屋、うどん屋、カレー屋などを次


々と渡り歩きました


当然、半端ではない食い過ぎーー二人共にして、服からこぎたない


腹が出ています。


ポケットの中のお金は、軽く五万円は超えていました。


そして、紳士服店に入ると二人とも高級スーツに身を包んだのです。


残金はどんどん増えていきます。


一番高級なホテルに、モデルチェンジしたばかりのスポーツカーで


乗り付けました。


一階のテラス付、イタリアレストランで食事をしていると、隣のテ


ーブルに偶然、クルトラ背ブンブンの家族がやって来ました。


私は席をそっと立つと、クルトラにそっと耳打ちしました。


他の者に聞こえてはまずいので、口には白いハンカチを当てています。


「お前!腹が出てるぞ!みっともないっ!」


「あんたこそっ!」


「うっ!ううーーー、いつからここに住んでいるんだ!?ーーー」


「先月からです」


「もう、テレビには出ないのか?」


「ここを見つけてからは、働くのが、アホくさくなりましたーー」


「労働意欲を無くしてしまったと言うことですーーー」


「正義の味方が、そんなことを言っていちゃ、駄目じゃないかっ!」


彼は、両手を膝に押し付け押し黙りました。


ファミリーが心配そうに彼の方を見ています。


「おじいちゃん、このオッちゃん誰?」


生まれたばかりの、孫がクルトラ背ブンブンに聞きました。


「おじいちゃんの全く知らない人だよっ!雷太郎!」


「いいからあんた、もうあっちにに行ってくれ!食事がまずくなる!」


「私の孫にまでは、絶対に関わらんでくれ!」


クルトラは白いテーブルを立つと、煙草を吸いながらゆっくりと既


に日が暮れかかっているテラスを歩き始めました。


彼が腕を組みながら見つめる、その遙か先彼方の水平線には大きな


夕日が、三つ並んでいます。


それらが同時に沈んで行く姿は、まるで美味しそうな団子達のよう


です。


「同時に沈むとは、本当に不思議な多重星だーーーしかも同じ大き


さでーー」


彼はそう呟くと、自身が益々この惑星が気に入っている事に気付き


ました。


勿論、全員が全員、此所の世界から去るつもりは、もうとうなかろ


うと言う事もよく知っていたのですーーー。



(第九話)



PM八時ーーー。


夜になるとお星様が一つも空に出ていませんでした。


ええーーー今まで毎日毎日美味しい物に夢中になっていましたか


ら、夜空を見上げたのはこの時が初めてだったのです。


「透き通るような夜空でもーーお星様が一つも出ていらっしゃらな


いーーー」


この瞬間ーーーわたくしは此処の世界はお星様達に背を向けられて


いる事に気付いたのですーーー。


「此処は天国のようで実は地獄だ、働かず動かず喰い続けるーーー


結果は目に見えているぞーー」


私はそう言ってピエロの考えを確かめてみたのです。


「俺も実は同意見だっ」


「何せお星様は神様と同等なんだからよっ!」


こうして我々の意見は見事一致しました。


「じゃあな、クトルラあんまし太るなよ!」


そう言って店を出て行き、大通りから二人並んで空を見上げ「食い


過ぎはもう嫌ですーー。


神様お願いいたします!」


と祈願するとーー。


突然、何も無い夜空の一点から黒雲が広がり始め、それはやがてハ


リケーンそっくりの渦巻型ブラックホールを形成し始めました。


「キュイッッッーーーンッッッ!ーーーー」


直後ーーー。


強烈な吸引力で大空へと吸い上げられーーーホワイトホール側へと吐き出されたのです。


「ポイッーーーコロコロコロッッ」


二人して出口から転がり出るとーーー。


其処はどうした訳か?


ーーとあるキャバレーの真ん前だったのです。


此処はぼったくられる事で有名なところだった故にーー現在はたし


か閑古鳥が鳴いている筈ーー。


そうも思いましたがーー。


その後どうなっちまったのか見てみたい!とばかりに勢い入場して


みる事にしたのです。


「いらっしゃいませっ!」


中に入るとーー以外にも以前とは打って変わってまるで竜宮城の世


界ーーー。


鯛やヒラメ、タコ等の格好をした美しいホステスが目につきます。


「ブーーーーーーーー」


低いブザー音が長く鳴り響きました。


「では最初の、のど自慢の方です!」


舞台上での酔った客達のカラオケ大会が始まりだしました。


「本日は生バンドでのリクエストもお受けいたしますので、ふるっ


て御参加下さい!!」


司会者が場を大いに盛り上げ、スポットライトが真一直線に灯され


ると場内がもう一段暗くなりました。


「さあっ早く早くっ」


「そうかっ、ではーー」


私共は、まるでゾウリムシが細胞分裂するかのように残像を引いた


まま二手へと別れて行きました。


勿論、それぞれが好みのホステスを見付ける為です。


道化師は比較的舞台から近い席。


私はホール中程に設置された欄干席のような場所を選びました。


「ガブリッ!ーーーーーー」


それは突拍子もない出来事でした!!


道化師は席に着くと同時に跡形も無く消え失せてしまったのです。


一瞬の事でしたからはっきりとした事は分かりませんがーーー。


自分的には何か隣に座っていたホステスが大口を開け、電光石火の


ごとく彼を突然飲み込んでしまったように感じられました。


事の真相は分かりませんが、ひよっとするとあのホステスに魅入ら


れたら最後、あれが彼の将来の姿だったのかも知れません。


ですが彼なら大丈夫です、またどうにかこうにかして何処からとも


なく出て来ますのでーー全く心配はありませんーー。


私も両隣に座っている、みてくれまるでプロモーション嬢でもある


かのような華やいだ美しさを持つホステスに喰われないように注意


いたしました。


「ザワザワザワザワザワ~~~」


どうやら生バンドによる真夜中の歌合戦開催が効いたのか?いつも


より客達が大勢、席に溢れかえってきた様子。


いや、そんな筈はないーーー。


それでは、一体何処から現れたのか?


感覚的には、客より遙かに多いホステスらが次々と偽男性客達を分


身させていったように感じられました。


(こんなにも強い霊気が感じられるキャバレーは初めてだーーー)


私の予感は当たっていました。


何故なら突如として目の前の席には、どうもホステスが分身させた


らしい恐持ての男、三人ばかりがいつの間にかふんぞり返っていた


からです。


しかし、既にかなり酒に酔っていて私の事には全く気付いていない


様子ーー。


私はこのことからーーー分身ではなくーーー。


閑古鳥をどうしても避けたいホステス達の怨念がーー。


過去繁盛していた頃の情景をまるでビデオプロジェクターのように


凄まじい程の執念で呼び起こしているのだと確信しました。


良く見るとーーー。


それらの男性はよく見ると薄ペラで奥行きが無く、ほんの少し透明


がかっていますから。


私の姿形は、こいつらには分からない筈ーーー。


途轍もない事実に気が付くと、両足をテーブルに乗せ、殿様になっ


たような態度で顎を使いフルーツ大盛りをボーイに持って来させた


のです。


しかしながらついには男達は結局、私の事に気が付きました。


「てめえっ!親分の前でなんだその態度は!!?」


私は所謂人間プロジェクター映像のくせして実体を認識出来るのか


よ!と大いに驚きました。


しかし決して暴力は使えない筈。


手が届きそうで決して届かない場所ーーーですから私は彼らの事を


散々罵声してやりました。


すると、男達は今から事務所に連れて行ってやる!!と怒り狂った


のです。


しかしながら、彼らと私は違う次元の住人。


まかり間違っても絶対安全だと言う自信があったのです。


「オリャッ!中へ入れっ!」


まあ、何事も勉強だと事務所にお供して行くと、いきなり指を詰め


ろと言われました。


私が嫌だと言うと何人かの舎弟が瞬時に反応し飛び掛かって来まし


た。


「スルリンッ~クルリンッ~」


しかしながら、彼らは私の首根っこを捕まえる事が出来る筈もあり


ません。


「何だ?ーーーこの野郎っ?!」


「こーーーこいつ、きっと幽霊ですぜっ!親分!」


組員達は驚きの表情で私の顔を見ましたが、私は幽霊ではない、あ


んた達の方がそれに近い存在だと教えてあげたのです。


「てめえっ!いい加減な事いいやがって!」


ええ、怒り狂った組員達は一端脚立に駆け登り天井裏からピストル


を取り出そうとしたのです。


「だから無駄ですってーーー」


そんな訳でーーー。


私共は近くて実は甚だ遠く、しかも決して攻略できないーーー大天


守閣外堀越しに相対るかのような状態となっていたのです。ーーー


ーーーー妖精シリーズ(完)

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白馬の妖精の一日 完結版 閉口世界 @qerQ24567

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