少年ロベルトは、母の再婚をきっかけに家庭内での居場所をなくし、士官学校へと入学します。士官学校が主な舞台と言っても、ライトなファンタジー世界の、キラキラとした騎士見習い物語ではありません。戦う相手は魔物ではなく、同じ人間です。
本作は、戦場の厳しさや人間社会の理不尽さから目を逸らさず、「これでもか!」というほど濃密に描かれた、人間ドラマだと思います。
主人公は、剣の才能があるだとか誰からも好かれる人格者だということもなく、最初は少し欠点が目立ちますが、むしろそこが魅力的です。様々な出会いや事件を通して成長していく少年を、まるで家族を見守るかのような気持ちで応援してしまいました。
異世界を舞台にしておりますし魔法も登場するのですが、どちらかというと歴史物を読んでいるかのような気分になる、リアルな舞台設定。重厚な異世界物語がお好きな方にはもちろん、普段はファンタジーを手に取らない方々にも、ぜひお読みいただきたい作品です!
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ところで本作は、作者様が書かれている長編「イレスダートの聖騎士」の前日譚にあたるそうです。どちらから読めば良いの? と思われる方もいらっしゃると思いますが、悩ましいです。
本作「彗星たちのアリア」からお読みになれば、本編をより深く理解できる気がします。「イレスダートの聖騎士」からお読みでしたら、前日譚では何度もニヤニヤできるはずです。
ひとまず、片方を読めばもう片方を読みたくなると思いますので、どちらからご覧になってもきっと大丈夫です。主人公も異なりますし、個別で楽しめます。かく言う私は本編から読み始めました。
(一読者としての個人的な見解です!)
多くの方々がこの作品を見つけて下さいますように。