半身転生したけど女神にひとことモノ申す

ちびまるフォイ

間違って殺しちゃいました(すっとぼけ)

キキーーーッ!!


耳をつんざくブレーキ音とともに俺の体は宙へとんだ。

車にはねられた痛みよりもむしろこれから死ねることへの期待感が勝った。


目を覚ますとどこか見覚えのある殺風景な部屋。


女神は台本をがっつり読みながら話す。


「えーっと、あなたは……私たちの手違いで死んでしまいました。

 そこで、なにこれなんて読むの? おへびとして」


「お詫び」


「おわびとしてあなたを転生してさしあげます」


「待ってました!!」


この先の第二の人生は楽しみでしかない。

女をはべらし、人々から英雄視され、ラッキースケベもあったりなかったり。


そんな素敵な異世界ライフが待っているんだ。


「では転送します。ぱららぱっぱぱ~~」


目の前がまばゆい光に包まれたその途中で俺は病院で目が覚めた。


「あれ? 異世界は? 転生は?」


「もう大丈夫ですよ、あなたを死の淵から救いました」


ベッドのそばには髪の毛が白黒の男が立っていた。


「あなたは……?」


「ボッタクリジャック……通称BJ。もぐりの医者です」


「ってもうちょっとで転生するところだったのに!

 どうして蘇生させちゃうんだよ!!」


「救える命があるのに救わないなんて、医者の名折れだ。

 あ。あと治療費3億円ね」


「やっぱりか!!」


転生して第二の人生をはじめるどころか、

借金でリスタートの第三の人生がはじまってしまった。


「ああ……なんてことだ……痛っ」


急に体の痛みを感じた。

上着を脱いでみると、体にはモンスターのひっかき傷のような生傷ができている。


いったいどうして……。


「はっ! まさか転生のときに急に復活しちゃったから

 中途半端に転生しちゃったんじゃないか!?」


異世界には俺の半身が転生され、

現実には蘇生された半身が取り残されてしまった。


セーブのタイミングにでカセット抜き差ししてバグったゲームみたいに。


「まぁ生活に支障はなさそうだし、まぁいいか」


などと余裕ぶっこいていられたのも最初だけで

めちゃくちゃ生活に支障が出始めた。



「いってぇぇぇぇぇ!!! 痛い痛い痛い!!」


「どうした鈴木、保健室いくか?」


「いえ、大丈……いってぇぇぇぇ!!!」


世界を救うためにボスモンスターと戦っているんだろうか。

体にはやけどや切り傷がどんどんわいてくる。それも授業中に。


保健室に担ぎ込まれても先生は顔をかしげるばかり。


「いったいどこからこんな傷が……」


「いたーーい!! ちくしょう、俺の半身めっ! おとなしく過ごせやぁぁぁ!!!」


どんなに叫んでも意識の高い俺の転生半身は世界を救おうと躍起になっている。

そのダメージは俺のほうにも入ってくるからはた迷惑。


クラスメートからは異常者扱いされ、

変な宗教からは「聖痕の申し子だ」とか勧誘されてさんざんだ。



「くそ……なんとかできないものか……」



時空を隔てているのでこっちからのコミュニケーションは取れない。

いますぐ「もうやめろ」と説教したいがそれもできない。


できることはただひとつ。


「俺の半身を殺すしかない。半身を殺せば主導権は俺に戻るはずだ」


その日から俺は積極的に不健康な生活を送った。


食事もとらず、睡眠もとらず、鏡の前で「お前は誰だ」と言ったりして

心と体を徹底的にいじめぬいた。


数日後には効果てきめんで見える風景は二重になるし

鏡に映る自分はジョニーデップに見えてきた。


「ふふふ……どうだ……こんなコンディションでは……世界を救えまい……。

 せいぜいそこら辺のザコ敵に殺されるがいい……」


半身を共有しているので、現実の体の悪影響はあっちも受けるはず。

こんな状態で冒険なんかしてたらひとたまりもないだろう。


そして、ついにそのときは訪れた。



「あっ! 死んだ!!」



半身を通じてたしかに命の鼓動が止まったのがわかった。

ついに異世界に行っていた半身が死んだ。


主導権が戻ったからか、異世界側の俺と視界が共有できた。


「はははは。なんでぇ、道中の弓ゴブリンに負けたのかよ、だっせぇ」


これで半身はなくなり、全身が現実に戻れる。

長かった。これでようやくまともに食事がとれる……。



そのとき、まばゆい光が差し込んできた。




半身の目を開けると、見覚えのある殺風景な部屋が広がっていた。


いやな予感がする。


「えと、あなたは、私たち女神の運命のてちがいで死んでしまいました。

 おへびをかねて、あなたを転生させてあげましょう」



「いい加減にミスするんじゃねぇぇぇぇ!!」



現実の俺からの叫びもむなしく、俺の半身はまた新しい大地へと転生した。

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