君が見ている僕のこと⑤ 進んだ理解

◆ 伊理戸結女 ◆


「おーっす。結女ちゃん、いま時間あるー?」


 午前の部のプログラムが進んでいく中、運営のテントで忙しなく動き回っていた私のところに、暁月さんがやってきた。

 暁月さんは私と仲がいいのもあり、応援団と生徒会の連絡役を請け負ってくれている。


「あ。うん。大丈夫。何?」

「実はね、学ラン持ってくるの忘れちゃった子がいてさー、予備ってどっかにないかな?」

「あー、大丈夫大丈夫。そういうことがあると思って余分に用意してあるから。えーっと、たぶん被服室の段ボールの中かな」

「ありがとー!」


 用が済んだところで、ついでに訊いておこう。


「クラスの様子はどんな感じ?」

「んー? まあ普通かな。盛り上がってる人は盛り上がってるし、盛り上がってない人は盛り上がってないし。体育祭ってそういうもんだよね」

「そうね……」


 私も生徒会じゃなかったら盛り上がってない側だっただろうし。


「それじゃあ水斗も?」

「それがさあ、いないんだよね。川波ともども! 東頭さんのほうかなーって見に行ってみたんだけど、そっちもいなくて! たぶんどっかでサボってるよ、あの三人」


 水斗と川波くんと東頭さんが……? そういえば最近、その三人でつるんでいるのをたまに見る気がする。川波くんと東頭さん、あんなに仲が悪かったのに、わからないものだ。


「んー……」


 私は少し考えて、


「まあ、いいんじゃない? やることがなくて退屈するよりは、そっちのほうが」


 その気がない人を、無理に人の輪に入れるべきじゃない。水斗たちには水斗たちの、イベントの過ごし方がある。それを一方的に否定できるほど、私たちは偉くないのだ。

 うーん、と暁月さんは難しげな顔で首を傾げ、


「生徒会様が言うなら泳がせておきますかー」

「やめてよそれー」

「あは! もし競技に顔出してなかったら言ってね! すぐ見つけてくるから!」


 暁月さんなら本当にすぐ見つけてきそうだ。もうすでに一個競技に出ているはずなのに、全然疲れた様子がないし。障害物競走、源義経みたいだったなあ……。


「伊理戸さん! ちょっとこっちに――あ」


 明日葉院さんが小走りに来て、暁月さんの顔を見た途端、動きを止めた。

 暁月さんのほうはと言うと、明日葉院さんの顔には見向きもせずに、パンパンに張ったジャージの胸元をじろじろと見つめて、


「……なぁんだ。今日はスポブラか」

「なっ、なんでわかるんですかっ!」

「いや、体育祭なんだから当たり前でしょ……」


 顔を赤くして身を引いた明日葉院さんに言いつつ、私は軽く暁月さんをチョップした。

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