好きな人が家にいる④ 私立洛楼高校生徒会執行部
◆ 伊理戸結女 ◆
「やあ、集まってるね」
明日葉院さんたちの騒がしさとは対照的に、紅鈴理生徒会長は落ち着いた様子で生徒会室に入ってきた。
小柄なのに相変わらずの存在感で、自然と身が引き締まる。……そして、その影に潜むようにして、野暮ったい眼鏡をかけた男子――
「こんちゃー。すずりん。ジョー君も。お先に後輩とイチャついてるよ!」
「うん。キミの人懐っこさには頭が下がるよ愛沙」
「そりゃ、すずりんがお堅いからねえ。あたしくらいはやーらかくしてないとー。ね? ジョー君もそう思うよねー?」
「……………………」
羽場先輩は無言で会議机のほうに行き、自分の鞄を下ろした。
亜霜先輩は「むうー」とあざとく唇を尖らせて、
「いつまで警戒されればいいの、あたし?」
「ふん。胸に手を当てて考えてみるんだね」
「すずりんもいつまで根に持ってんの」
「根に持ってなんかいないさ。ただぼくは、一人称が自分の名前だった女子のことを覚えているだけさ」
「ぼくっ娘がなんか言ってるぅー」
紅会長に対してこんなにもフランクに接する人を、私は初めて見た。それはなんというか、この一年間、この生徒会室で積み重ねられた歴史を、ほんのわずかに垣間見るような会話だった。
今は他人事、何のことだかわからない会話。
……でも一年後には、私も似たような会話をしているのかもしれないと思うと、何だか不思議な気分だった……。
「あ、あのっ!」
私が呆けていると、明日葉院さんが亜霜先輩の腕の中から脱出し、緊張の面持ちで紅会長の前に立った。
「わ、わたしっ……明日葉院と言いますっ。亜霜先輩の推薦で、このたび生徒会に入ることになりましたっ。未熟者ですが、こっ、今後とも、どうかよろしくっ――」
「よろしく、明日葉院くん」
紅会長はおもむろに明日葉院さんの手を取り、その瞳を見つめて笑いかけた。
あまりにも綺麗なその微笑に、明日葉院さんはかーっと無言で顔を赤らめる。
「未熟者はぼくも同じさ。ぼくが間違いを犯したとき、どうかキミがそれを正してほしい。逆にキミが間違いを犯したら、ぼくが万難を廃してキミを助けよう」
「はっ、ふぁっ、ひゃいっ……」
明日葉院さんは尚更ガチガチになって、こくこくと肯く人形と化す。それを見て亜霜先輩が、「あーもう。このタラシがよー」と呆れたように呟いた。
さっきは、私に対抗するようなことを言っていたけど、……結局、明日葉院さんも、紅会長に憧れているのだろう。私と同じように。
会長は明日葉院さんの手を放すと、私のほうに目を向けた。
「結女くんも、本当にありがとう。ぼくの誘いを受けてくれて」
「いえ……自分の意思ですから。これからよろしくお願いします」
卒なく挨拶することに成功すると、紅会長の死角から、明日葉院さんがぐぬぬと悔しそうな顔をして私を睨んでいた。
「な、なんで伊理戸さんは下の名前で……」
「文実に同じ苗字の子がもう一人いてね。キミも下の名前で呼んだほうがいいかい? 蘭くん」
「ひゃっ!? あ、あうっ、ありがっ、ありがとうございますっ!」
深々と頭を下げる明日葉院さんに、微笑んで肯きかけると、紅会長はすでに羽場先輩が着席して待つ会議机のほうに向かった。
「さあ、席に着きたまえ。メンバーは出揃った」
ホワイトボード前のお誕生日席に紅会長が座ると、続いて亜霜先輩が、そして私と明日葉院さんが、それぞれ椅子に腰を下ろす。
校則によって定められた生徒会役員は五人。
会長――二年生・紅鈴理。
副会長――二年生・亜霜愛沙。
会計――二年生・羽場丈児。
庶務――一年生・明日葉院蘭。
そして、書記――一年生・伊理戸結女。
紅鈴理生徒会長は、悠然と腕を組んで告げた。
「今日からぼくたちが、洛楼高校生徒会執行部だ」
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