第3話 ハチは無関心
ハチの中でも、アシナガバチの仲間は気性が荒くない方だと言われている。らしい。
今回、家の駐輪場に作られたハチの巣だが、自宅前の道路と隣接している。家の近くには工場が立ち並び、そこに通勤する労働者が何十人も毎日朝夕に往復する。つまり、毎日、巣のすぐ横を何十回も人が通ることになるはずだ。
しかし、あのハチは通行人に関心を示すことはなかった。
それだけじゃない。
ウチの親父も駐輪場でバイクのエンジンをブンブン鳴らして会社に出かけていく。それがほぼ毎日。かなりうるさいが、それでもあのハチは怒らない。
そんな騒がしい場所を、あのハチは巣作りに選んだのだ。
元々、そういう状況に慣れていなければ、あんな場所に巣を作らないだろう。
通行人や観察する僕に対して無関心なのも、そういう慣れがあるからかもしれない。
巣を間近で観察する僕を無視して、遠くに餌を探しに飛んでいくほどである。「あんな変なヤツは関わらないでおこう」と考えていたのかもしれないが……。
基本、どの生物もエネルギーを節約しようとする。自然界の鉄則だ。
このハチも同様に、エネルギーを節約するために通行人を無視しているのではないだろうか。
敵を威嚇したり攻撃したりするにはエネルギーが必要だ。
自分を攻撃する意志のない敵まで攻撃してしまうのはエネルギーの無駄となってしまう。それなら餌を探すのにエネルギーを使った方が遥かに効率的だ。巣の近くを通る何十人を逐一攻撃すると、エネルギーの採算が取れなくなる。
だから、あのハチたちは攻撃対象を厳選しているのかもしれない。本当にギリギリの防衛ラインを攻めて来る敵以外は無視しておく方がエネルギーの節約になる。
巣のすぐ傍に通行人が来ても、ハチたちは「いつものことだろ。放っておけよ」と考え、無視を決め込む。
ただし、ときにはハチたちの「いつもの」が崩れるときが来るだろう。
例えば、通常の何十倍も人間が近くを通行する状態などが挙げられる。周囲をうろつく人の気配がなかなか消えず、騒音が刺激となって巣での緊張感が高まるのだ。
そのときハチたちは何をするか、次章で述べていこうと思う。
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