芙蓉のせい


~ 八月二十五日(金)  理科? ~


  芙蓉の花言葉 幸せの再来



 夏休み終了まであと三日。

 奇跡的に一日一教科の宿題を片付けてしまった藍川あいかわ穂咲ほさき


 ねえ神様、あなたはこいつを甘やかしすぎなんじゃないかな?

 本当なら今頃必死に宿題と戦って、自らの怠惰を反省してなきゃいけないのに。


 午前中いっぱい公園の水遊び場で子供と一緒になってはしゃいで、お昼にそうめんとスイカを食べて、扇風機に『あー』ってやったことを絵日記に書いて。


 夏、大好評発売中。


 でもね、穂咲。

 今日は芙蓉の花を一輪、低めに結った髪に挿していたから大人っぽく見えたせいですっかり騙されたけど、君のそれは、小学生の夏休みです。



「これで宿題、全部終わったの!」

「終わったのって。君は理科の宿題をどうする気なのでしょうか」


 いやいや。

 訊ねた俺の方を向いて、絵日記帳で顔の下半分を隠されてもね。


 …………え? まさか。


「それが理科の課題?」

「そうなの。自由研究なの」

「研究してません。自由過ぎです」


 それじゃ自由自由です。ビバ・リバティーです。


「研究なんてできないの。あ、それなら料理研究を……」

「人体実験も不可です」


 いや、再び顔を隠されても。

 上目遣いに見つめられましても。


「じゃあ、行くか! 海!」


 隣の席でせんべいをかじっていたおばさんが、急に大きな声をあげた。


「なんで海なの?」

「研究できるでしょ、何かを」

「何かってなんですか。雑です」


 口を尖らせる俺には目もくれず、能天気な二人がこぞってはしゃぎ出す。


 ……まあ、宿題のためならいいか。

 行ってらっしゃいな。


「あのね、ママ。あそこがいいの。バーベキューのとこ」

「ああ、前にあんたが話してたところ? じゃあ、まーくんに連絡しとかないと」


 嬉々として携帯を操作し始めるおばさん。

 そしてとたとた二階へ走って行く穂咲。


 パワフルだなあ。

 でも、宿題は忘れちゃダメですからね?


 そう言えば、おぼろげに憶えてるな。

 まーくんって、可愛らしい名前とは裏腹にガタイのいいおじさんだったと思う。


 おじさんの弟さんで、その人が海辺に別荘を建てて、そこに泊まりに行ったんだよね。


「ママ、大変なの。ビーチサンダル買いに行かないといけないの」

「別荘は空いてるってさ! 昨日まで使ってたらしいからきっと綺麗よ!」

「忙しくなってきましたね、今日は帰ります。穂咲の宿題はお任せしますね」

「なに言ってるのよ。道久君じゃなきゃ教えられねーでしょーが」

「ん? どういうこと?」


 首を傾げる俺に差し出されたおばさんの携帯には、母ちゃんからメッセージが入っていた。


 …………OKって、なに?


「ほっちゃん! バーベキューの他に焼きそばもやるから、鉄板出しときなさい!」

「了解なの~」

「とんとん拍子! って、待て待て! 遊ぶ気満々!? 宿題は!」

「だから、海でやりなさいって」

「ママー。炭ってあった?」

「去年のだけどたっぷり残ってるわよ!」

「去年のなら、きっと傷んでるの」

「穂咲よ。炭はいつから生ものになったんだい? じゃなくて、宿題は!」

「じゃあ必要そうなもん買いに行くか! 道久君、戸締りよろしく~!」



 こうして、夏休み最後の土日、二家族仲良く海へ旅行に行くことになった。






「宿題はーーーーーっ!!!」





 ――明日26(土)いつもの時刻に公開!

 2.7冊目最終話にあたる中編小説


『約束の、青いピカピカ ~秋立2.9冊目!~ 』


 どうぞお楽しみに!


「中編だから、三分じゃ読めないの。ゆっくり読んで欲しいの」^^🌺


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「秋山が立たされた理由」欄のある絵日記帳?? ~秋立2.7冊目!~ 如月 仁成 @hitomi_aki

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