キンギョソウのせい
~ 八月二十四日(木) 情報 ~
キンギョソウの花言葉 図々しい
夏休み終了まであと四日。
なんだかんだ、本当に一日ひとつの宿題を片付ける奇跡を起こすまであと二教科と迫った
今日の穂咲は…………、えっと、どんな格好をしていたっけ?
頭に挿していたキンギョソウすら引き抜いて、もう長いことタオルケットにくるまったまま震えてるから思い出せない。
「おい穂咲。もう少しで完成だけど、ページの捲れ方選べるみたいだぞ? どれにする?」
「うう、怖いの…………」
やれやれ、しょうがない奴だ。
結局俺が全部作ったようなものじゃないか。
情報の宿題は、自分のホームページを作って学校のサーバーにアップするというものだ。
とは言え難しい話ではない。
最初からテンプレートが出来ているのだ。
作業としては使いたい画像を携帯から送って文字を打ってレイアウトするだけ。
ページめくりとか、使える機能もそれなりに準備してあるのでお遊び感覚で作ることができるのだ。
穂咲が作ろうとしていたのは、絵日記帳。
何を勘違いしたのやら夏休み中ずっと書き続けていた絵日記の紹介だ。
穂咲はそこに、頭に挿していた花の画像も張り付けたかったらしい。
構想だけは一人前。
だけど機械が苦手な穂咲は、作業をはじめて五分で音を上げ始めたかと思うと、その直後にタオルケットちゃんになってしまった。
タオルケットちゃんとは、怖いものを見た直後の穂咲のことで、具体的に言えば白い毛のかたまりだ。
こうなるともう手が付けられない。
だから藍川家では、深夜にテレビのチャンネル切り替えする時はランダム押しせず、いちいち番組表を表示する。
地雷を踏むと面倒。
だってこいつ、トイレにもこのまま行くのです。
とは言え、いつもならこんなに丸まってるはずは無いような気もする。
俺に宿題やらせるための演技かもしれないな……。
そんなダイニングに、お茶とお菓子を持っておばさんが登場です。
「お饅頭持って来たわよ~。あら久しぶり。元気にしてた? タオルケットちゃん」
「元気だったの…………」
「まるで元気そうに見えないけど。どうしたの? あれ」
「webでキンギョソウの枯れた姿を見ちゃったんですよ」
「ああ、あれはホラーよ、ホラー。下手な頭蓋骨見るよりよっぽど怖い」
おばさんはお盆をテーブルに置くと、自分の両肩を抱きしめてぶるっと身震い。
でもその姿勢のまま、いたずらっ子もここまでにはならんだろと思う程のニヤリ顔を浮かべた。
「道久君。お饅頭、全部食べちゃっていいからね?」
その言葉に、ピクリと動いた真っ白な毛並み。
なんて現金な。
「それは嫌なの。食べたいの」
「残念でした~。全部にどくろ模様を落書きしちゃいました~」
ひどいなあ。
おばさん、意地悪が子供じみてます。
でも、昔っからこういうの好きですよね。
「じゃあ、そんな怖いのは食べて無くすの。ちょうだい」
「まて。どこかで聞いたことあるような小細工言うんじゃない」
俺の呆れ顔が、顔すら出していないこいつに見えるはずもない。
のそのそ床を這って俺の足元で停止したまま、じっと待っているようだ。
やれやれ、しょうがないな。
仕方が無いので甲羅の中にまんじゅうを一つ放り込んでやると、もふもふと美味しそうな音が聞こえてきた。
もう誤魔化さなくていいから、テーブルで食べないか?
「昔っから変わらないわね、あんた達は。……道久君、もっとちょくちょく遊びに来ていいのよ? うちのハンバーグ好きだったわよね。いつでも食べてっていいから」
「いえいえ。高校生にもなってそんな図々しい真似できないですよ」
「うん、ちょっとだけ図々しいと思うけど、食べてっていいの。そしてあたしは、この辺で良く冷えた麦茶が怖いの」
「お前が一番図々しいです、タオルケットちゃん」
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