第2話 嘘と嘘
新刊のラノベを買うにあたって、俺には特殊任務が与えられる。
それは、俺が面倒なことにクラスの人気者を演じていることが問題なのだ。
考えてみてほしい、クラスの人気者に偶然にも書店で会ったとしよう、
その人気者がオタク丸出しの表紙のラノベを買っていったら失望……
クラスの裏でどんな噂が生成されるか想像もしたくない。
『新崎君ってオタクなんだってー』 『えー!? まじショックー』
なんてことになったら……おうおう、震えてきやがった。
そのため俺はいつもラノベを買うときは、簡単ではあるが変装して目的を済ましているのだ。
「高校デビューが成功したのはよかったんだけど、まさかこんなデメリットがあるなんて」
駅のホームで一人、ボソッと呟く。
セミの声で埋め尽くされている空間にいると、夏という実感がわいてくる。
みーーんみーーんみーーーーん
うん、うるさい。
早く新刊を買って、涼しい部屋で読破したいぜ……
コンコン
階段を上ってくる音が聞こえてくる、セミの鳴き声と階段を上る音が交互に響き渡り、
少しずつ階段を上っていた正体が身を表す。
ツヤツヤしたセミロング、綺麗の整った顔のパーツ、そこら辺のアイドルに負けないボディー。
今朝駅のホームで話しかけてくれた、
我がクラスの委員長だった。
「あれ? 新崎くんだー、今帰り?」
「あぁ、委員長。 電車の時間一緒みたいだね」
「だーかーらー、私のことは名前で呼んでって今朝も言ったじゃない!」
どうやら委員長はきちんと名前で呼ばれたいらしい、
まぁ、理解できないわけでももない。
今まで名乗ってきた名前があるのに、『委員長』という役職を背をってしまったがために、自分の名前が「呼びやすいから」という簡単かつ明確な理由ですり替えられてしまうのだから。
「ごめんごめん、高崎さん」
「今朝とまったく同じやり取りだね」
くすくすと笑いながら、ベンチに座っている俺のほうに向かってきて、
「隣いいかな?」
「全然いいよ」
正常な一般的男子ならここで完全に惚れてしまうだろう、
かつ言う俺も、二次元にはまっていなければ惚れていたかもしれない。
「新崎君は家に帰っていつも何してるの?」
「うーん、読書とかかな」
もちろん、読書とはラノべのことである、
むしろラノべ以外の本は読んだことがない。
「へー、読書家なんだね!」
「そういう高崎さんは何してるの?」
別に興味はないけど、流れ的に聞かないとこの場が静寂に包まれそうだったので
一応聞いてみる、決して高崎に興味があるわけではない。
「うーん、私は。アニメとかゲームとかしてるなー」
お、これは以外。
だからといってここではしゃいで「俺もアニメ好きなんだ!」と告白してはいけない、アニメ好きには主に2種類いる。
1つ目は、ワン○ピースなど国民的アニメを見ているタイプと、
2つ目は、皆さんご存知、萌え要素を沢山ふくんだ深夜アニメを見ているタイプだ。
おそらく高崎は前者だろう。
「へー意外だね」
「そう?」
「高崎さんはもっとこう……お菓子作りとか、手芸とかやってるイメージ」
「いやいや、全然そんなことないってー」
こうしているうちに電車が到着した、
そのまま俺と高崎さんは4人乗りの席に向かいあうように座る。
もちろん電車には他の生徒も乗っている、外から見れば付き合ってると解釈されてもおかしくはない。これが人気者を演じているメリットだ。
そういえば一つ疑問に思っていることがあった、
「高崎さんって、なんでわざわざこんな遠い学校きてるの?」
「それを言ったら新崎君もだよ、どうしてこの高校にきてるの?」
疑問に対して疑問で返すなや。
「俺は、そんなに頭良くないし、近くの高校はちと偏差値足りなかったとかそんな理由だよ」
「えー、新崎君頭いいじゃんー」
「それで? 高崎さんは?」
「うーん、私実は今年になって引越してきたんだよね」
「そうなのか、てっきり生まれもこの土地なのかと」
「でさ、あんまりここら辺の土地勘ないから、電車で一本でこれるこの高校にしたんだ」
まぁ理由は人それぞれあるだろう。
電車が降りる駅の近くになり、お互い降りる準備をする。
「高崎さんは駅からなにで通学してるの?」
「駅からは親が送り迎えしてくれるんだー」
羨ましい、俺はこっから自転車マラソンですよ。
「新崎君は?」
「俺はこっからチャリ」
「そっかー、気おつけてね」
そして駅に到着し、車掌に定期券を見せて電車を後にする、
「じゃあ、また明日ね!」
「おう! また明日!」
迎えにきたであろう車に乗り込んでいく高崎を見送り、
駅の駐輪場においてあるクロスバイクのカギを外し、
全速力で家に帰るのであった。
「よし、変装OK」
眼鏡と帽子を被っただけである、だがこれでもしないよりはましだ。
「誰にも会いませんように誰にも会いませんように誰にも会いませんように誰にも会いませんように誰にも会いませんように誰にも会いませんように」
恐る恐る書店の中に入る、ラノベコーナーまでインコース、
無事にラノベコーナーまでたどり着いたと同時に、視界を埋めるほど大量のラノベが俺を迎えてくれた。
俺は無意識に
「ただいま」
と呟いてしまった、自分でも重症だなと思った、だがそんなことはどうでもいい。
「目的の新刊!」
なんと残り1冊だった。
「チョーラッキー!」
まだだ、はしゃぐのはまだ早い、
「今回の表紙……前回にましてきわどいな、こんなの買ってるのバレたら即ゲームオーバーだな」
ラノベに手を伸ばした瞬間、自分以外の手がちょうど俺の手と重なる。
そう、ギャルゲーのワンシーンみたいに……
だが、その手の主を見たとき俺は一瞬にして氷ついた。
「新崎……君………?」
つい先ほでまで電車で話していた、
委員長こと高崎だった。
クラスの委員長が性格詐欺者なんだが 朔立 @koyoizakura
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