第5話 気になるあの子と近づいてみませんか?
「よーし、もう一回乗ろう!」
一ノ瀬が俺の腕を引っ張って、階段を上っていく。痛い、痛い。しっかり握りすぎだから。
これでウォータースライダー10回目なんだけど。どうやら、一ノ瀬は乗らず嫌いだった絶叫系に挑戦したことで、すっかりそのスリルの虜になってしまったようだ。とはいえ、毎回、なぜ俺を連れて行く。
「この滑るまでのゾクゾクする感じたまらないよね!それと、滑るときの高揚感と、ゴールした後の開放感も!」
これは何か危ないスイッチが入ってしまったかも……。一ノ瀬の今後のためにも、後で設定を確認しておこう。
その後、プールの閉園時間ギリギリまで滑り続けた一ノ瀬は、プールサイドで上山と山城に土下座で謝罪をしていた。他の客たちの視線が痛いほど刺さってきて、むしろ、俺たちのほうが申し訳ない気持ちになった。
こちらは散々遊び倒してしまったので、この日のWデート(?)はそのままお開きになってしまった。
山城とは帰りの電車が逆方向だった。そして、なぜか一ノ瀬も寄るとこがあったと言って、離脱してしまった。
いつもはバランスを崩すから困ってしまう電車の等間隔な揺れが今日は心地よかった。一ノ瀬と遊んだ流れるプールで感じたささやかな波を思い出す
「……」
「……」
どうしてこうなった。
つり革に捕まる俺と上山。告白する前に振られたことがわかってしまったとはいえ、一度は気になっていた相手だ。やはり、緊張はする。そして、何を話しかけたらいいかわからない。
これは俺の推測だが、あのプールで2人には何かあった。しかも、それはあまり良くない結果をむかえた可能性が高い。
まぁ、その2人の行動を全く見ていなくても、帰る前に見た2人のどこか真剣な表情と、着替え終わった後の一ノ瀬の暗い顔を見れば嫌でもわかる。
「藤山くんは、好きな人いるの?」
本日2度目となるこの質問。
「……いないよ」
「そうなんだ」
そこで話は終わる。ただ、俺はその時わずかに浮かべた上山の口元の綻びが気になって仕方なかった。
駅に着く。
「今日は楽しかったね……といっても、藤山くんはずっと祭ちゃんと一緒だったけど」
「一ノ瀬がウォータースライダーにすっかりはまっちゃったから。付き合わされたこっちとしては、もう今年は乗らなくていいかなって思ったよ」
「さすがの祭ちゃんもへばってたね。周りのこととか、後のこととか考えないのは、祭ちゃんらしいけど」
少し癖のあるショートヘアの先端を指先っでいじりながら、上山が微笑む。
「あの……さ」
くるくると髪の毛をいじっていた上山の人差し指がぴたりと止まる。
「もし、良かったら……でいいんだけど、ね」
手のひらから汗が滲んでくる。心臓の鼓動が少しだけ早く脈打ち始める。
「私と……友達になってくれませんか?」
残念ながら、世の中はそこまでなんでもかんでも上手くいくほど、出来すぎてはいなかった。
チートアイテム、買いませんか? つかさ @tsukasa_fth
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