雪月人形と未婚少女

@blackpearl

序章

【“契約人形、未だ発見せず”】


巷を騒がせている“契約人形”とは、特別な人形であり、精巧な人形作り手の技術を施された人形でもあると、何処の記事にもそう書いてある。

それ以外の文面は、あれこれと噂程度のゴシップを匂わせるようなもので、嫌気が差し、目を閉じる。

再び、目蓋を開けた時に他の記事へ視線を移す。


オカルトめいた謎への興味が増幅され、好奇心と刺激を満たそうと、人はあーだこーだと討論し、さらに加熱していくのだ。

見ていて、正直此方が疲れてしまう。

直ぐに別のものへと興味を反らし、なるべく其方の方を視界に入れない。

そうでもしないと、妙な気疲れが出てしまって、嫌な気分のままで一日を過ごすのは、単に嫌だからである。


記事の中に書かれている、渦中に居る人形師の縣棟蔵の字を指の腹でなぞった。

悪く、面白可笑しく書かれているが、私は知ってる。

この人は、厳しくながらも心優しくて、人の見る目があった。

指先に古傷があり、節榑立つ両手から生み出す人形は美しく、優美なものであり、人らしかった。

オーダーした人に合う人形を精巧に細部までこだわり、他の人に容易く手渡すような事をさせないほどの数多くの人形たちを創った。

あの優しかった手を此処まで悪く、面白可笑しく人達を許せる気がしない。

心の中で抱えていた黒い感情を口に出してしまいたい、けれど、この人は微笑みとは言えない笑顔で、「やめなさい。」と言って来るだろうから。


「おじいちゃん。」


この人は、私の父方の祖父だった。


最近になって、私の幼い頃の夢をよく見る。

田舎の山中の家に住まう私のおじいちゃんと二人暮らしをしていた夢。

おじいちゃんの仕事を色んな方向から見て、私が話し続けていた夢。

他にも見ていた夢は、全部幸せな夢。


でも、今日は、幸せな夢じゃなかった。


泣いてばかりだった小さな私が何か怖いものに追いかけられて、捕まって殺されそうになる夢を見た。

勢い良く布団を掴み、飛び起きた私の体は冷や汗まみれで気持ち悪く、心臓の脈打つ音が大きく耳元まで聞こえていた。

視界に映る、かたかたと震える両手を夢の中だけでなく、現実までも恐怖していたのを知る。

収まる事を知らず、少しずつ大きくなる震えに見ないように目蓋を閉じて、両手に力強く握った。


夢じゃなかった気がした。


怖い夢の中は、人の執着、嫉妬、羨望の混ざり、禍々しい狂気に近しいものを感じた。

警報音が脳内に響き、気にしすぎだとは思うが、次は私が殺されるのではないかと思っている。

気がするでなく、恐らく、現実に起きる。

何故か、そう感じている。


「次は、本当に・・・。」


そう思わずにいられない。






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