第5話 吊革

 基本的に、電車では座れない。

 帰りの電車でも、残業とかで遅くなった日以外は、なかなか座れない。

 だから、自分はいつも吊革を持って電車に乗っている。


 吊革も、混んでいるときは掴めないことがある。

 立ち位置によっては、どこも掴めずに電車の揺れにバランスを崩すこともしばしばだ。


 今日、いつものように混んでる車内で、座っている人たちの前に立って吊革を掴んでいた。

 いつも通りの朝だ。

 次の駅では結構人の乗り降りがあるから、運が良ければ座れるかもしれない。

 そう思っていると、駅に着く直前に、目の前の人が立ち上がった。

 やった、座れる。

 そう思って吊革を離そうとして……


 手を、掴まれた。


 視線が、ゆっくりと、右手に向かう。





 私が掴んでいたものは……

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