第2話 昔の夢は電車の運転手

 小学生の頃、俺は電車の運転手になるのが夢だった。

 先頭車両で運転手が指差し確認をしながら電車を運転するのを見ては、心をときめかせていた。


 向かってくる景色。

 ちょっと斜めに傾く景色。

 線路のスイッチでガクンと揺れる景色。

 どれも面白かったし、いずれは自分がその景色を誰よりも前で見るんだと思ってた。


 都心の電車はどれも混んでるから大変なのだけれど、小学校へ行くために電車に乗らなければいけない事が俺にとっては最高に嬉しい事だった。

 ある意味、それが分かっていたから少し頑張って私立の小学校に入れるようにお受験をしたと言ってもいい。

 その結果、電車登校が叶ったのだ。

 そう、その時はまだ夢は変わってなかった。


 その夢が消えてしまったのは、小学5年の時だった。


 きっかけは、あの日。


 朝、なんとかその日も先頭車両の一番前に陣取って、窓から運転席を見ていた。

 いつも通りの景色と、運転手の挙動。

 そのころはもう、運転手の合図や指差し確認のタイミングなど、ある程度分かるくらいになっていた事を覚えている。


 それは、一瞬の出来事だった。


 運転手の目の前にある電車の窓が、真っ赤に染まったのだ。


 急ブレーキで車内は騒然としていた。


 その一瞬前の『ドンッ』という鈍い音が、今でも耳に残っている。


 その音とともに、真っ赤に染まる直前に、俺は。




 目が合った。




 サラリーマンだった。


 飛び込み自殺だ。


 自分の横に居た女性が、急ブレーキのすぐ後に吐いていた。



 あの音と。


 あの匂いと。


 あの目。



 俺はその日、運転手になる夢を、捨てたんだ。

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