電車にまつわるウワサ
龍宮真一
第1話 運良く座れた日
毎日、満員の電車に乗って会社に向かう。
出社する頃には、すでに少し疲れている。
家から会社まで、だいたい1時間半くらい。
遠い。
けれど、都内は家賃が高すぎる。
それに、引っ越しするのもお金がかかる。
電車は2回、乗り換えをする必要がある。
それはいい。
一番つらいのは、出社するまで一度も座れない事だ。
私はいつも、座席を向かい合わせにしている場所に立って、吊皮を掴んでいる。
ドアの近くは痴漢に合う事が多い。
それに、ここならもしかしたら座れるかもしれないから。
まぁ、今まで1回も座れたことはないけれど。
そんなある日。
目の前に座っていた男の人が席を立ってドアから駅に出て行った。
私はすかさず座席に腰を下ろした。
初めて座れた…
今日はどうやら運がいいらしい。
私が下りるのは、ここから50分後くらい。
少し眠っても問題ないくらいの時間がある。
私はスマホを取り出して、ゆっくりとニュースなどをチェックしようと思った。
え?
なんだろう。たぶん、見間違い? 気のせい、だよね?
人同士がひしめき合っている車内で、足元の方は少し隙間がある。
普段は見ないけれど、今日は座れたからそれが良く分かる。
向かい側も同じように、人が等間隔で座っている。
どんな顔をしてるかとか、それは全く見えないけれど。
え!?
私は下を向いた。
視線はスマホの画面。
向かいにある座席に座っている人たちの、足元。
そこにある、隙間。
そこから。
誰かが。
こちらを見ていた。
ああ、ダメだ。
あり得ない。
見間違いだ。
絶対疲れてるんだ。
左右の人を、軽く首をひねって確認してみる。
寝ているか、携帯電話をいじってるか、どちらかだった。
向かい側を見ている人なんて、誰も居ない。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
いっそ、寝てしまおうか。
そんな事を、ずっと考えていた。
出口のない迷路に居るようだった。
気が付いたら、降りる駅になっていた。
私はとにかく向かい側を見ないようにして、人の波にのまれながら、ドアから外へと出た。
なんだったんだろう、アレは…。
私は普段よりも数倍疲れていた。
それからというもの、電車では怖くて座れなくなってしまったのだった。
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