「いや、べつに行ってもいいけどさ……。親に聞いてみないとちょっとわからないよ」

 この頃の私というのは、親、特に母親の許可をきちんと取らないと遠出等はしてはいけない。と思い込んでいたのだ。最も、この彰によってその価値観はだいぶ変えられることになるのだが。

「あー、うちの親がもう連絡したってよ。オッケーだってさ」

 なんというか手回しが早いというか。というかそもそも論、もともと行くつもりだったのではないだろうか。だとしたらうちの母上ももっと早く言ってくれればよかったのに。

 ともかく、これで私に断る理由はなくなった。まあ、もとより断る気なんてなかっただろうけど。

「母さんたちは、車で橋のところ行くっていうから、俺らは走っていこうぜ」

 彰が、元気よく言う。橋のところというのは、水戸と私らの町とをつなぐ橋である。ちょうどその橋のあたりの河川敷からだと花火がきれいに見えるそうだ。車で行くと十五分くらいのところだ。

「走っていくの? 」

 私は疑問を覚えていた。親が車で行くというのに私らが走っていく必要があるのだろうか。一緒に行けばいいじゃないか。

「トレーニングトレーニング。陸は、毎朝走っているんだからあれくらいの距離楽勝だろう? 」

 いや、まあ、確かに朝ランニングしているおかげであの頃の私は、体系に見合わない持久力を持ち合わせていた。しかし、もう夕暮れといえど夏だ。しかも練習を終えたのちの夕方だ。本音を言うと疲れていた。

「楽勝楽勝! 走っていこうぜ! 」

 などと言ってしまうあたり、私もまだ若かったのだ。

 その後、彰は近所に住んでいるチームメイトの勇弥も来るらしいから連れてくると言って勇弥の家へと向かった。一人、公演に取り残された私は、食べ終わったアイスの棒をかじっていた。

 なんだか仲の良い少年団の同期のお母さま方。現在、あれから七年ほど経った今でも交流が続いている。聞くところによると飲み会で朝帰りをしたり、誰かの家に泊まったりとしている。この花火を見に行くというのも私ら子供は「ついで」だったのかもしれない。まあ、親同士が仲が良いこともあって、私らは私らの友情を気づくことができたからべつに構わないのだけども。

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ありきたりなタイトル 速水春 @syun

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