第19話 最終話

 このことに気づいた我々は、ある計画を思いつき実行することにしました。


 我々は、秘密裏に主任研究員……彼の人面果実を、彼の妻に食べさせて観察することにしたのです。

 その結果、驚愕きょうがくの事実が判明しました。


 彼女が人面果実を食して一ヶ月後、『夢をかたり菜草』は彼女を苗床なえどこにして発芽を始めたのです。

 やはりあの果実は人間の食料ではありませんでした。


 人間が食料だったのです――。


 体内で発芽までに一ヶ月。

 更に、人面果実になるのに一ヶ月を有するのは――より多くの人々が食べるように、身を潜めて「待つ」能力を身に着けているからなのだと判明したのです。


 発芽して二時間後――彼女は息絶えました。


 そして、二ヶ月後。


 成木となった『夢をかたり菜草』から人面果実が実りました。


 予想通り、実ったのは彼女……いや、彼女の人面果実でした。

 その果実も当然のように『彼女の夢』を語り始めました。


 彼女の果実を食べさせた次の実験者も同じ結果でした。

 その次の人体実験でも同じ――。

 その次も、また、その次も――。


 人面果実は収穫しても、ほんの数日で次の果実が実ります。

 苗床と同じ顔で――。


 半年後、研究室は夢を語る『夢をかたり菜草』であふれました。


 私は今、研究室でこの最終報告を撮っています。

 そして、目の前で起こっている更なる事実を追記して送ります。


 最初に人面果実になった主任研究員とその妻。

 私は二人にひどい事をしてしまったのではと――後悔の毎日でした。

 しかし、この目の前で繰り広げられる現実をどう表現したらよいのでしょう?


 観てください。夢のような光景です。


《愛しているよ。いつまでも君は綺麗だね。僕は世界征服を実現したから、君にプレゼンがあるんだ。目を閉じてごらん》

《プレゼント? 何かしら。とっても楽しみだわ》

《目を開けていいよ。ほら……これが僕から君へのプレゼントさ》

《なんて素敵な宮殿なの。今日はここに泊まるのね……》

《違うよ。この宮殿がプレゼントさ。君の好きなバラの庭園も見えるだろう……》

《なんてことなの。あのプールもそうなの? その後ろに広がる草原も?》

《全部君の物さ……この宮殿だけじゃないよ。世界中が僕達の物だから……》

《こんなに幸せで怖いくらい……》

《僕もさ……夢じゃないかと思うくらい幸せだよ……》


 今の会話を聞いたでしょうか?

 なんと、この人面果実は……夢や愛を「語り合う」だけでなく、一緒に「幻覚を見る」ことも出来るのです。


 素晴らしい事ではありませんか――。

 一人でも、恋人でも、夫婦でも、家族でも、仲間たちとでも、一緒に夢を語り、そして夢を目の当たりにできるのです。


最終報告いたします――。


『夢をかたり菜草』は、N国民を救うものにあらず。

 ましてや、世界中の人間をN国人にして世界を征服するなど夢のまた夢でしかありません。


『夢をかたり菜草』は、人間を媒体ばいたいとして繁殖を広げる危険な『食人植物』であることは明白です。


 さて……日下部総理はこの報告を聞かれて、どうされますか?


 今の荒廃した地球を再生させるには、人類を全てリセットすることが残されたただ一つの道かもしれません。

 人間としての肉体を失っても『夢をかたり菜草の果実』となって、未来永劫に自分の夢を語り、見続ける事ができるのなら、現実の状況よりは幸せと言えるのではないでしょうか?


それだけではありません。


 果実の中には人類の『DNA』が残るわけです。

 もし、地球が進化の最初の段階に戻ったとしても――いずれ人類は復活できるものと推測いたします。


 当然、何億年もかかるでしょうけれど。


 私は――この事実を秘密にしたまま『夢をかたり菜草』の種子を大量生産に移しました。

 そして、総理の作戦通り世界中に送る事を指示しました。


 この手紙が総理に届く頃には、私も、研究所のスタッフと一緒に『夢をかたり菜草』の『果実』となって、この田舎の研究所で夢を語っている事でしょう。


 御先に失礼いたします――。 【厚S労働大臣 吉田 夢二】



 真っ青な海と、真っ赤な果実に覆われた大地の地球。


 楽しげな笑い声や、歌声が響きわたっている。


 この星は――『宇宙一幸せな星』となった――。


                              了

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喰わせろっ ! 山本 ヨウジ @yamayamato

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