第18話 最終話の一話前
――国家DEBU法 第六条――
【全てのN国民を空腹から解放して、未来永劫夢を語れる国家を構築する】
鍵のかかったジュラルミンのケースの中にはタブレットが入っていた。
どうしてスイッチが入ったのか、そのタブレットに保存されていた、ある動画が再生されはじめた。
そこには、行方不明と噂された厚S労働大臣 吉田夢二の姿があった。
【バイオ新種開発プロジェクトにかかる報告:タブレット番号六】
日下部総理大臣 ご機嫌はいかがでしょうか。
ご無沙汰しております。厚S労働大臣の「吉田」です。
緊急事態の為、要点だけ報告致します。
『夢をかたり菜草』の『果実』には重大な欠陥……いや脅威が隠されていました。
我々が実験当初に報告した『N国人を苗床に成長した果実を食した者に、そのN国人の人格と顔がのり移る』と記された《臨床結果報告書》は真っ赤な嘘です。
あれは、当研究所のスタッフであり、実験の為に我が身を提供してくれた主任研究員の言葉です。
いや、正確には、彼を苗床に成長した『夢をかたり菜草』の『果実』が語った『夢』の内容を報告書にしたものなのです。
そう、彼の夢――世界征服の――夢を。
なぜそのような報告書を出したか疑問に思われるでしょう?
でも、間違いなくあの報告書は、私の指示で総理に送りました。
何故こうなったのかを話しましょう。
一ヶ月でたわわに実った『夢をかたり菜草』の『果実』――。
しかし、それを食すると身体を乗っ取られるという恐怖から、スタッフの誰もその果実を食べることは出来ませんでした。
彼の『記憶とDNA』を吸収して実った、真っ赤で美味しそうな果実を、誰も食べることは――。
我々は、こう着状態のまま、結局一ヶ月間その果実を放置してしまいました。
そんなある朝の事です。
果実の世話をしていた主任研究員の妻が、たわわに実っていた果実が、一個を残して全て落果しているのを見つけました。
彼女は、『夢をかたり菜草』の果実が一個になった事を嘆きました。
それはそうでしょう。
半永久的に実り続ける果実として開発したのに、一ヶ月足らずで実らなくなったのです。
夫の身を挺した実験は何だったのか? と。
その時の彼女の心境を察すると――言葉が見つかりませんでした。
しかし、本当の驚きはその後だったのです。
それは――残った一個の果実を彼女が手にした時でした。
その果実が喋り始めたのです。
それも、彼女の記憶を呼び起こす声で話し始めたのです。
そうです。
果実が顔に……彼女の夫である、主任研究員の顔に変化していたのです。
報告を聞いたとき、我々は驚きと、恐怖でパニックを起こしました。
当然でしょう。
種を蒔いて一ヶ月で真っ赤な果実を収穫できる食料を、実験もできずに一ヶ月間放置したら――その果実が彼の顔になったのですから。
我々が右往左往しているさなか、彼女は慈しむように彼の果実を見つめていたそうです。
そして彼が語りだした『自分の夢』を――夫の夢を記録したのです。
報告書はその内容です。
彼に、もう少し夢を見させてやりたかったそうです。
日下部総理――。
苗床になったN国人の『記憶とDNA』を吸収した果実。
それを食べた世界中の人々の『脳と顔を奪って世界中の人をN国人にする計画』は――夢でしかありません。
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