半獣人達の集落へようこそ

「本ッ当にありがとうございます!俺たちはこれでどれだけ救われたことか!!」


「そうです!あの時助けてくれなかったら集落のみんなが死んでしまっていました!!僕を助けてさらに仲間も助けてもらうなんて・・・皆さん本当にありがとうございます!!!」


 森の中の広い道の左側を10台ほどの馬車が綺麗に並びながら走り、その一番先頭の馬車に乗り上下左右に揺れる真っ最中、半獣人の青年とベルティーナはその馬車の中でも先ほどと同じ頭を下げた敬礼のようなポーズをとった。


「いやいやそんな・・・1分おきにやらないでくださいよ」


「その丁寧語もやめてください、その言葉は俺達が使わなくてはいけないのですから!」


 そう言って頭を上げた毛の色が紫色の半獣人の青年の名前はベネディクトという。この俺達が載っている馬車や荷物を運ぶ馬車のチームリーダーをやっているという。身長は約160cmほどと俺より身長は低めだが顔の表情もシッカリしていてとても仕事ができそうな雰囲気を醸し出している。


「それでも集落の皆が死ぬなんて大げさな―――」


「いや兄ちゃん、それは大げさとかでもなく本当だと思うぜ?」


 俺の頭の上に乗りながら毛づくろいをやっていた泥鴉が”集落の皆が死ぬ”という俺が冗談だと思っていたことを突然否定し、少し驚く。


「えぇ・・・なんでお前がそんなこと知ってんだよ?」


「なんでって、これ以外の他9台の馬車に積んでる荷物は全部食料だろ?」


「えっ?」


「おお、よくわかりましたね」


「そ、そうなの?」


「ここらへんの土にはあまり栄養がないみたいだしな。ここで自給自足ができないから外から持ってくるしかないんだろう」


「泥の魔女デトラ様さすがお詳しいですね。集落から馬車で6時間ほどの場所に俺達の畑があってそこで野菜を育てて採って集落に運んでいるんです。なのであの魔獣のせいで荷物を運ぶ人達が全員殺されていたら、集落に食べ物が送られてこなくなり飢えて全滅してしまっていたということです」


「キヒヒヒヒ!やはりそうだったか、ワタシの予想が当たったぞ!」


 自分の予想が当たっていたので嬉しかったのかデトラは馬車の中で跳びはねた。いつも泥泥土土言っている泥の魔女デトラが土のことを話すとなんだか説得力がある。

 俺はベネディクトの説明になるほどと納得したと同時に疑問も湧いた。何故この半獣人達は何故こんなにも栄養がない不便な所に住んでいるのだろうか?先祖が昔から住んでいた土地だからとかか?

 ―――しかしそれにしても、


「あの、突然すみ―――すまんが・・・葬ってやらなくてよかったのか?」


 脳裏についさっきの不思議な行動が浮かび上がっていた。謎の魔獣を倒して礼をされた後、数十人の半獣人達は死んでしまった半獣人の死体には目もくれず涙も一滴も流さずに俺達を乗せてそのまま出発してしまったからだ。


「葬る・・・謎の魔獣に殺されてしまった仲間のことですか?あれで大丈夫です。あの場所では逆に触ってはいけないですし涙も流してはいけないのですよ」


「触ってはいけない・・・?」


 少し違う感覚に戸惑う。これがカルチャーショックというやつか。


「俺たちの文化では戦闘中に死んでしまった仲間には離れてからでないと関わってはいけない、もしくは触ってはいけないというものがあるんです。死んだ体から魂が抜けてそれが大きな流れの一つになる、けどもしその最中に自分の死体に触られて人の温もりを感じたり声をかけられて名残惜しくなっててしまうと大きな流れにの一つになりにくくなる・・・かららしいです。半獣人の文化は周囲とは少し違うせいか珍しがられたしますね」


「・・・なるほどなあ」


 俺の元いたセカイの国でもみんな黙って笑ってはいけないというルールのようなものがあった、でも国が変わるとその日は酒や豪華な食事をして笑ってその人を見送るというのがあるというのも聞いたことがある。やはり死という概念は人によっても世界によっても違うんだなと実感する。


「で、それでデトラさんや泥兵さんや泥鴉さんはいつまでこちらにいるつもりなんですか!?僕ら半獣人はお客さんをとても歓迎しますよ!!」


 ベルティーナは嬉しそうな表情になり力がこもった声でそう言った。


「この集落にベルティーナの脳ミソに住み着いていた虫が関係あるのかどうか、そして謎の魔獣の肉片や血液のサンプルを入手してからだな」


「もしよければ集落の仲間全員に虫がいるのか確認してみてもらえませんか?そんな危険な虫が脳に住み着いているかもしれないと考えると不安で不安で・・・」


「言われなくても最初からやるつもりだったさ、ワタシは今大量のサンプルが欲しいからな」


「しかしあの謎の魔獣の死体、すぐに消えるとはなあ。かなり大きかったのに残念だったな姉ちゃん」


 そう、俺が吹っ飛ばした謎の魔獣の死体はあの後デトラが確認しに行くと何故かその場所から消えてしまっていたのだ。2分や1分じゃなくあの時15秒ほどしか経過していなかった、そんな短時間で全長5m幅4mの巨体が周囲を探しても姿が見えなくなるほどの距離に移動できるだろうか?結局対峙して勝ったのにも拘わらず全貌はわからない、それどころか体から噴き出していた黒い液体や弓矢で刺されてもノーダメージな体と謎が増えるばかりだった。 


「まあそんなに急がなくていいさ。ここらへんをうろついていればまたいつか出会えるだろうからな」


「そうですね・・・最近は出現頻度が多くなりましたし、またすぐに会えてしまうかもしれません」


 そう言うとベネディクトは疲れた表情で下を見つめる。そりゃあれだけ仲間を殺されたりベルティーナ達を謎の魔獣討伐に行かせたらベルティーナ以外は全滅なんて悲しすぎる。もし身内や家族や友人がが一気に10人以上誰かに殺されたとかになれば俺は学校に行かなくなるだろう。・・・っていうか今更だが謎の魔獣って複数体いるのか。


「おーい、もうそろそろ着きますよー」


 馬車の運転席に乗った半獣人の男性は後ろに振りむきながらそう言うと、馬車が走っている道の先に木でできた大きな門と壁が見えた。


「ほーあれ全部木でできてるのか、凄いでかいな」


「最近の魔獣の件もありますから集落の防壁を前より大きくしているんですよ」


 大きな門の前まで来るとサイドの小さい窓から半獣人がヒョコッと顔を出す。一瞬見たことがない俺達の顔を見て驚くが、運転席に乗った半獣人がポーチから取りだした笛で音を鳴らすと納得したようで中に入って行き、その直後木でできた大きな扉が木が擦れる音を立てながらゆっくりと開く。するとそこには―――


「来るのも久しぶりだなぁ」


「なんだあれは!木の上に家を作っているのか!?わ、ワタシもあそこに登ってみたいぞ!!」


「・・・日本じゃなかなか見れない光景だ」


 地面の上以外にも様々な場所に生えている木の上を利用して家が建てられていた。つまりツリーハウスのようなものが沢山あった。そして夕暮れに照らされているせいかとても雰囲気が綺麗で幻想的だ。


「はははは、そう言っていただけてとても嬉しいです。心に元気がでました!」


「あれ、でも―――」


 ベルティーナが嬉しそうに笑う中、俺は集落を見渡しながら疑問に思ったことがあった。人が全く見当たらない、誰も歩いていないしよくよく考えたら少し暗くなってきているのに家の中で明かりをつけていないのもおかしい。

 そう考えていた次の瞬間、突然ツリーハウスの屋根の上からかなり速い速度で俺に目がけて弓矢が飛んできた。


「「!?」」


「―――――」


 俺はその弓矢に対して掴み取ろうと反応しようとしたが、俺が反応するよりもベルティーナの方が反応した速度が速かった。瞬時に弓を構えて飛んできた弓矢を射たのだ。

 飛んできた弓矢はベルティーナが弓で射た弓矢は真っすぐに正面からあたり空中で粉々に砕け散った。あまりの速さとその洗練された動きに俺は少しの間見とれてしまっていた。


「ワシの弓矢を弾くとは―――おいベネディクト、そこにいる泥の臭いを漂わす奴らは何者だ?」


 老婆のような声がその場に響いたと同時にどこから飛び降りてきたのかわからない弓を左手に持ち黒いローブを被った120cmほどの半獣人が馬車の目の前に立ち塞がった。


「村長!彼らは敵ではありません、俺達や積み荷を謎の魔獣から命をすくってもらいさらにはベルティーナを救ってくれた命の恩人なのです!!」


「・・・ベルティーナ、ベルティーナがそこにいるのか!?」


「はい!僕はここにいますよおばあ様!!」


 ベルティーナはそう言うと馬車を飛び降りて黒いローブの半獣人に力一杯抱きついた。それと同時に目から大粒の涙を流した。


「おお・・・この毛の触り心地はベルティーナで間違いない!帰ってこないから死んだとばかり思っていたが生きていたのか!!」


 そう言うと黒いローブの半獣人はそのままベルティーナを抱きしめた。


「ええ、でも僕だけでここまで帰ってきたのではありません!泥兵さん達が川で息が止まっていた僕を助けてくれたのです!!」


「なんと・・・そうだったのか」


 すると先ほどと同じようにどこからともなくローブを被った50人ほどの半獣人が飛び降りてきて、そのままベルティーナ付近のどんどん群がっていく。


「ベルティーナおねえちゃん生きてたんだね!よかったあ!」


「ええアビー!僕は生きてました!」


「よくあの魔獣との戦いに生き残ったな!お前が戻って来てくれただけでも俺は嬉しいぜ!!」


「フレイザーさんも薬が足りてて元気そうで良かったです!」


「ベルティーナああああ!がえっでぎでよがっだああああああ!!」


「アンドレアねえさん鼻水と涙が顔に!!」


 目の前で繰り出されている光景に取り残されている俺たちは黙ってそれを見ていた。 


「あ、あの村長、お客様がいますので―――」


「おおそうじゃった、すまんベネディクト」


 すると馬車の前にいた半獣人達は全員フードをとった。ベネディクトから村長とよばれていた黒いローブを被っていた半獣人は声からの予想通り顔も老婆のようなシワがある顔だった。そして半獣人全員で今日だけでかなり見た例の頭を下げててからの敬礼をした。


「ようこそ、我ら半獣人の集落へ」


 村長がそう言うと同時に集落の家の中全てに暖かい明かりが灯った。

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目が覚めたら何故か泥の魔女のシモベになってたんだが 魚を1匹見つけたら100匹いると思え @sakanatarouv

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