第14話 そして彼女は

 彼女は、あれから1週間学校には来なかった。まさか、僕を避けるために休んだのかと思ったが、その理由は単純だった。彼女は盲腸で入院していた。

 見舞いにはゆうが通っていたが、ゆうが用事で行けなくなったので1日だけ代わりに行くことになった。本当はもっと早く会いたかったが、彼女のもとに行く理由がなかったので、行くのをためらっていた。情けないが僕は小心者である。


 美崎西病院。ここらの町でも比較的大きな病院である。ちなみに僕とは違う病院だ。彼女は2階の15号室にいるらしい。

 僕の体は一歩一歩彼女に近づいている。なんだかそのたびに胸の鼓動が大きくなった。


 目をつむって扉を開ける。勇気をだして目を開く。すると、彼女と目があった。

「はっ、、、、な、なんで?まだ、。」

「ゆうなら今日は用事だって、、。」

「なんで、あいつ連絡入れないのよ。ちょっ、待って髪の毛ぼさぼさなのに、ごめん、3分待って。」

 彼女は非常に慌てたご様子だった。ゆうのプレゼントのバナナが飛んできたのは痛かったが、久しぶりのこの感じをとても懐かしく感じた。


 改めて扉を開くと、彼女の顔は緊張のオーラ全開でこちらを見ていた。自然と力が入る。少しばかりの沈黙。

 しかし、僕は心の中で自分を奮い立たせて口を開く。これは言わなければならない。

「あのさ、いままでさ、あ、その、ごめんね。」

彼女を見る。目を大きく開いて口をパクパクしている。だが続ける。

「君は、あの時僕に言ったよね。君のことをどう思っているか。」

「あの時は、まだ分からなかったけど、時間を懸けて、考えて、君と少し距離ができて、そして、最近答えが分かったんだ。」

息を整える、そして胸に手を当て、もう一度深呼吸をする。そして、彼女を見る。

「君は、、、僕の、、、特別な人、大切な人、そして、、僕の初恋の人だってこと。」

最後までいうことができた。言ったとたん体の力は抜けていった。彼女はとても驚いた表情だった。それから、少し戸惑った顔、喜びの顔、そして、涙の顔に変わった。

「そう、、私も同じだよ。、、、う、うれしい、、今日は今までで一番いい日だわ。」

彼女はそういって答えると力が抜けた僕を優しく抱きしめた。彼女の涙で僕の服は濡れてしまった、でもこんなに心地よい涙は初めてだった。もう一生離したくはなかった。お互いの顔を見る。そして笑う。そして、抱きしめる。この2人の、僕と彼女との世界の中には、悪魔よりも強い愛があった。絶対に、来年も僕は必ず生きてやる。そう心に誓った。


 これまでのこと、ゆうのこと、学校のことをたくさん話して本音をぶつけた。

 そして、帰り際に、来年もまた一緒に夏祭りに行くことを約束した。




 日付は11月4日。通学路の木や花たちは、それぞれの色を持って鮮やかに色づいている。なぜだか今日はいつもよりきれいに見えた。

 学校について、勉強して、ご飯食べて、途中で居眠りして、そして家に帰る。そうした、ただ何気ないことの繰り返しがやけに楽しい。

 でも学校から下校していると、いつのまにか空は曇っていた。そのせいでいつもの通学路はモノトーンな色に見えた。

 家に着く、頑張った自分にお疲れ様を言う。僕は、リビングのソファーに腰かけた。その時、家の電話は震えた。取るのが面倒だと思ったが、家には僕しかいなかったので、電話に出ることにした。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 、、、、、、、、

 聞きなれない女の人の声、その声は悲しみに溢れていた。この電話には出るべきではなかった。その瞬間僕の視界は、モノトーンに変わった。

 彼女は嘘をついた。僕と彼女の来年の約束は果たせなくなった。彼女と僕は、大嫌いな運命によって2度と会うことはできなくなった。彼女は、浜波美穂は、僕より先に息を引き取った。肺炎だった。僕は、受話器を床に落としてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る