第12話 じゃあ、またね

「えっ、、、。」

思わず声が漏れる。

「君はどうなの?私のことどう思っているの?」

 彼女は髪を耳にかけながら小悪魔みたいに微笑む。

 僕は、どうなんだろう。僕は、彼女のことを、、、。まだ分からない。だって、僕は近い将来いなくなる人間だ。誰かを好きになっても悲しくなるだけではないのか。頭が混乱する。それよりも、彼女は本当に、、、、

「あっ、花火が始まったよ!」

 悩んでいた僕とは裏腹に彼女は目の前の花火を楽しんでいた。時々、声を上げながら嬉しそうに見ている。揺れる髪、キラキラした瞳、くしゃっとなる頬。見ててなぜだか飽きない。ずっと一緒にこのまま時間が止まればいいのに。よく言われているセリフだがこの言葉が一番ふさわしい。なんとなく整理がついた。そうか、僕は彼女にずっと生きてもらいたい。生きて、彼女に会うことが僕の人生の目的だったのだと思いたい。そして、僕が生きた証になってもらいたい。僕に命をくれたあなた。僕は、今まで生きてきた理由が分かった気がします。ありがとう。


 花火もそろそろ終わりが近づいてきた。ふと彼女は言う

「私は、君が好き。君がどう思っているかわからないけど。君が好き。、、、、、でも、君とは付き合わない。もし、君が私のことを好きって思ってくれている夢みたいなことが起こっても。でも、君はそれでいいよね。」

 振り返った彼女。暗くて細かい表情は見えないけれど嬉しそうな顔ではない。だって、涙を浮かべているから。今まで一緒にいて泣いた彼女は初めてだ。少しの間僕は口が開いたままだった。ぼーっとしていた。僕を起こしたのは彼女の声だった。

「みて!あっち。」

 何も考えずに指をさされた方向を見る。すると、まもなく彼女は唇を押し付けた。やさしくて温かくて驚くほど柔らかな唇の感触。目を向けると彼女は目を閉じていた。その瞬間僕と彼女との時間は止まっていた。

 

 そのあとすぐに彼女は立ち上がり背を向けた。そして、何かを飲み込むかのように息をのみこういった。

 「じゃあ、またね。」

僕は、動くことができなかった。闇の中に消えていく彼女目で追うのが精いっぱいだった。僕と彼女はこの夏の間に、会うことはなかった。

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