第11話 本当は
歩いて5分くらいすると、祭りの行われる美崎天満宮が見えてきた。この祭りは、美崎神流祭りと呼ばれ、この美崎天満宮を中心に、半径4キロも広さの中で、毎年160万人が訪れる。この地方の中でも有数の規模を誇るり、美崎全体がお祭りムードに包まれる。僕はこの町に、かれこれ16年住んでいるが今回来たのも含めて3回ほどである。
沢山の人をかき分け、僕らはまずおみくじをした。僕は、おみくじはあまり興味がないが、彼女は僕に3番勝負を仕掛けてきたので、引いてあげることにした。彼女は運には自信があるそうで、これで僕に負けたたら、財布の中身全部を僕にくれるらしい。勝ったら本気でもらってやろう。ちなみに、僕は何も賭けていない。
結果は、僕は中吉、彼女は吉だった。
中吉 願い 思わぬところで手に入る
学問 きっと必ずうまくいく
病気 強い意志を持てば治せないものはない
全く、おかしな話だ。神様は超一流の詐欺師である。こんなことを書かれると少し期待してしまうではないか。これは僕への優しい噓なのだろうか。これだから、おみくじなんて信用できない。
おみくじから、大差で負けて無一文になる彼女に目を移すと、うー、と言いながら涙を浮かべて落ち込んでいた。いとおもしろしだったので、長年の膝蹴りのうらみを少し晴らすことにした。
「ほら、お金、財布貸してみ。負けたんだからねぇ。」
「うん、、、、。」
驚いた表情で僕を見る。何かもごもご言っているが聞こえないので無視した。しかし、意外と彼女はすんなり渡してきた。そして、僕はそのあとすぐに理由が分かった。
財布の中には、レシートしか入ってなかった。お金は?と思ったが、彼女が持っていた巾着をニヤニヤしながら指をさしている様子を見るとはめられたことに気づいた。このお返しは、草履のかかとを4回踏んずけるだけで許してやった。
次に、スーパーボールすくいで対決した。制限時間1分で多くのスーパーボールをすくったほうが勝ちだ。この勝負は開始10秒ですくいの薄膜を大胆に破い彼女の大敗。結果は12対1で僕の圧倒的な勝利だった。ああ、いい勝負だった、ラムネがすすむ。
最後は、射的。ここまでおみくじ、スーパーボールと僕の2戦2勝。「大人げない」という彼女の発言により、射的に勝ったほうが勝者という極めて極悪なルールを勝手に制定した。射的は今までやったことがないからいいでしょ?という彼女だったが、その腕前は5発中4発命中。横にいた小さな男の子から、「すごい、すごい!」と賞賛を浴びていた。こうなると、運は彼女に味方し始める。僕は、的に当てるのに景品を打ち落とせず、あっけなく負けてしまった。
結果、3番勝負は彼女の逆転勝利。敗者の僕は、特大わたあめををおごらさせられた。
「いやぁー、楽しいね、お祭りは。」
「そうですね。」
意地悪だけはどんどん上達するのに、どうして学力は伸びないんだろう。
「うふふふふふ。」
ご機嫌な彼女は顔をくしゃっとさせて、微笑んで、
「来年も、こんなふうにまた行ければいいのに。」
僕は返事をしなかった。自分がいなくなってしまうからというよりも、彼女自身が、もういけないような口ぶりに驚いたからだった。
祭りも、いよいよお目当ての時間が迫ってくる。50万発の花火打ち上げられるらしい。僕と彼女はラムネとりんご飴を買って見晴らしのいい丘の木の下に座った。完全に日も暮れて風も出てきたため意外と涼しかった。ふと、彼女が口にする。
「こうして、2人で祭りをまわっているとなんだかカップルみたいだね。」
「そうだね、その言い草だと、どこもかしこもカップルだらけだね。」
そういうと、彼女は足をバタバタさせて
「また、話をそらす、本当はわかっているんじゃないの?」
「何を?」
隣には、不機嫌そうな君がいる。
「嘘?ホントに言ってる?」
「うん、何が言いたいの?」
本当にわからないって顔をすると、僕のラムネを取ろうとした手をもって
目を絶対にそらせないような切なくて美しい表情で
「私が君のことが好きっていうこと。」
彼女の目はじっと僕の顔をとらえて離さなかった。
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