第10話 花火

セミによって朝起こされる季節になった。彼らは、そんなに一生懸命に鳴いて何を残そうとしているのだろう。昔、セミは成虫になると7日間しか生きられないと本に書いてあった。僕よりもずっと短い。もしかしたセミが鳴くのは、わずかしかない自分の命を嘆いているのかもしれない。


 終業式が終わったのにも関わらず、補習という激烈トップ級にめんどくさいものがある。きっと先生たちもだるいなあーと思っているだろうが、じゃあやらなければいいのにという幼稚な疑問は、この世界では通じないだろう。でも、今めんどくさいと思える自分がいる、そう思うとこの補習も嫌いに離れない。今のところは、僕の悪魔は影を潜めている。暑さにやられてるのだろう。

 悪魔でもつらいこの季節に、多くの人々はそんなもの忘れるくらい元気な様子である。

 花火。それはそんなにも魅力あるのだろうか。


「ねえ、ねえ明日さ、美崎祭りあるじゃん?」

「おうおう、あのリア充が大量発生するあの美崎祭り?」

ゆうは、リア充に何かうらみでもあるのだろうか。キンチョールをまけば効果抜群だと思う。

「行こうよ、3人で。明日で補習も終わりじゃん。」

「いいのか、森山や西田とかと行かなくても?」

「あの2人は、彼氏と行くんですぅ。」

やけにこぶしが入っている。どっかの天城を超えそうな勢いだ。

「まさは、いくのか?まあ、俺は浴衣美人を拝みに行くけど。」

こいつはぶれない。意志の固さはダイヤモンド級だ。石だけに。我ながらひどい。

「そうだな、2人が行くなら僕も行こうかな。」

「ホントに?じゃ、じゃあ5時30分に美崎広場に集合ね。」

相変わらず元気な子だなあと思う。

「来なかったら殴るから。」

そう言って彼女は、スカートをひらひらさせながら先に家に帰っていった。

「あいつさ、最近変わったよな。」

「そうかな?」

そうには見えない気もするが、ゆうからにはそう見えるのかな。

「うん、、なんかさゴリラが抜けていっている気がするんだよね。」

「そうなの?」

「うん、変わったよ、、、、、ふっ、。」

そういって少し微笑んで、物思いにふけるような顔で彼は僕の前を歩いていた。


 日は沈みそうなのに、まだまだ熱は残っている。その中には人の熱も混じっていると思う。人込みはあの買い物以来だ。

 5時25分、社会の常識のならって5分前に集合地点についた。

まだ、彼らは来ていない。おそらくジャストかそれよりも後に来るだろう。社会に出て絶対苦労するだろう。それにしても、花火まで2時間以上あるっていうのに広場には人がたくさん集まっていた。

 パタパタと小刻みに鳴る音がする。振り返るといつもとは違う彼女がいた。髪は、四つ編みにきれいに結ばれている。赤い花のかんざしは、似合っているという言葉でしか表せなかった。青紫の浴衣に紅色の帯。走ってきたのか少し火照っている表情は大人っぽくて、魅力的だった。

「ごめん、待った?」

息を漏らしながら上目づかいで僕をみてくる。

「12分待ったかな。」

「そこは、待ってないよ、今来たところって答えてよ。」

照れ隠しの言葉によって頬を風船のように膨らます君。右指でつついて割ってやろうかと思ったがやめておくことにした。

「ゆうは?」

軽く彼の存在を思い出したので聞いてみる。

「ゆうは、良平たちといくって。」

こいつ裏切ったなっと思ったが、彼の意志は固い。きっとナンパをしに行くのだろう。あとで、振られて美穂に殴られるといい。

 こうして僕らは、2人で祭りに行った

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