第3話 光の強すぎる笑顔
家を出る。花の香りが僕を迎えて来る。見慣れた風景、何度も歩いた道。なのに、初々しくて恥ずかしい気持ちがするのは制服のせいでだろうか。
あの日、僕は手術を受けた。肝臓の一部を移植した。肝臓は3分の1を切断しても正常に働く、異常な生命力。だからと言ってそれで病気が治るのかといわれればそうではない。僕は永遠の命を得たわけではない。僕の肝臓は、悪魔が住み着いている。手術は、悪魔の足をもぎ取ったということにすぎない。でも、十分すぎるくらいの時間と自由を与えてくれた。
県立美崎高等高校は、偏差値54の中規模の学校。地元の中ではそれなりの進学校。
学校は中学2年の2月からほとんど行ってなかったが、勉強は一人でやっていたため合格できた。大きくは言わないが、地味に優秀である。通えるようになったのも、運命なのかもしれない。
前日に入学式を終えた僕らは、教室に入る。みな各々に緊張と期待を抱えた空気は、少しだけ息苦しかった。
僕は、窓側の一番後ろ。いわば、死角。僕らしい。
深呼吸をする。机を撫でる。ネクタイを少しさわり自分がここにいることを確かめる。少し喜んでもだれもみてまいと思い、力を入れて弱弱しいこぶしを作った。
その時、甘い柑橘系のにおいがした。あわてて、横を見る。視線をかわす。ガタッと椅子を引き、目線が僕と同じになる。
「初めまして、浜波美穂です。よろしくね。」
そういって彼女は、馬鹿にするように小さくガッツポーズをして微笑んだ。
大きな目がくしゃっとなる。白い歯がこぼれる。僕には、その笑顔がまぶしすぎると思った。
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