第2話 あなたに命をあげましょう


 あれから、3週間たった。力を振り絞って書いた遺書は無駄になった。なぜだか今振り返ってみると少し恥ずかしい。時刻は4月7日7時20分。桜も満開を迎えている。

 今僕は、青色のネクタイと紺のブレザーを体に装備している。ネクタイは僕を嫌がるように右に曲がってひねくれている。それとは反対に心はときめいている。こうして僕は2度目の人生を迎えている。いや、人生をもらったのだ。ブレザーの内から桜色の封筒を取り出す。誰もいないことを確かめて、小声で読んでみることにした。


 拝啓 人生に嘆いているあなたへ


   突然ですが、あなたに命をあげましょう、これは協力です、運命に抗うため の。パーティを組みましょう。一人よりも誰かがいたほうが元気が出るものです。そこに悪魔がいるのなら一緒に体の悪魔を倒しましょう。限りある2度目の人生の中であなたの生きた軌跡ををたくさん作ってください。

             

遺書を書いたあの日に僕が叫んだことは一言だけである。たった一言。

 「あと、1年僕に命をください…。」

カーテンの隙間から入り込んでくる光は、春の香りを運んでいた。

                   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る