決着

 その騒ぎの中、皇帝は静かにマリポーザを見つめていた。使えるのかどうか、メリットとデメリットを秤にかけているのだろう、とフェリペは推測する。


 その時轟音が響き、四つの魔法陣それぞれから炎と水、風、そして土が吹き出した。

 人々は口論を止め、何ごとかと固まる。


「Yp yq prali ommeiymw」

 魔法陣から吹き出た炎が、赤いドレスを身にまとった女性の姿になる。

「Gu zem`p fobu omi pynu pe orwau pfyq」

 続いて魔法陣から吹き出た噴水も女性の形になり、片頬に手をあてて困った顔をした。

「Gfi oru fanomq qe qpatyz?」

 渦巻く風が小さな子どもの姿になり、大きく伸びをする。

「Ze iear vuqp, Mariposa」

 土が盛り上がり大岩のような老人の姿になった。突如現れた四人の精霊は、マリポーザを守るように四方を囲む。


「これはなんだ?」

 さすがの皇帝も驚き目を丸くしている。

「えーっと、彼らは四大精霊です。火の精霊サラマンドラ、水の精霊オンディーナ、風の精霊シルフィデ、そして大地の精霊ノモです」

 マリポーザは冷や汗をかきながら皇帝陛下に四大精霊を紹介した。

「彼らは、どうかマリポーザが精霊対話師として精霊術を続けることをお認め下さい、と皇帝陛下にお願いしております」


 皇帝に大広間全員の注目が集まる。皇帝はマントを翻して立ち上がった。

「マリポーザ、お前が精霊界に行っていたという証言を信じよう。精霊界が存在することを、ここにいる四大精霊達が証明している。ほかの証言も筋が通っており、嘘をついているとは思えぬ。

 よって、アルトゥーロ・デ・ファルネシオ特別参謀とマリポーザ・プエンテに謀反の意思がなかったことを認めよう。

 だが、過去に大事故を起こし、死傷者を出したことも事実である。そのため、アルトゥーロ・デ・ファルネシオ特別参謀の地位を剥奪し、精霊使いの制度を廃止する。

 マリポーザ・プエンテ、お前は脱獄したことの罪により、一時的に帝都から追放する。各地を回り精霊術の研究をすることで、精霊対話師として我がインヴィエルノ帝国の役に立つことを証明せよ」


 マリポーザはひざまずき、一礼をした。ほかの人々も続いてひざまずく。

 いつの間にか精霊達は消えていた。


「よくやったな、マリポーザ」

 皇帝が退室したあと、フェリペがマリポーザに近づくと、マリポーザは膝から崩れ落ちる。半泣きでフェリペを見上げた。

「フェリペさん……。膝が笑って、立てません……」

「よし、つかまれ」

 フェリペがマリポーザを抱え起こす。

「途中は気を揉んだが、言い分を認めてもらえたな。大勝利だ」

「は、はい……。なんか気が抜けたら腰も抜けてしまって……」

「フアナが君の帰りを首を長くして待っているよ。今まで何があったのか、僕の家でゆっくり話を聞かせてくれるよな?」

「もちろんです」

 マリポーザは満面の笑みを浮かべた。

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