追う者の葛藤
「マリポーザはどこに行ってしまったんでしょうか」
前を行くフェルナンドが心配そうに言う。
「どうしたんだ、フェルナンド。普段は他人のことなんて気にしないのに。マリポーザが可愛いからって、惚れたんじゃないだろうね」
フェリペがわざとからかうと、隊員たちが笑って冷やかし口笛を吹く。
「そんなんじゃありません!」
フェルナンドはムキになって否定する。
「大尉はなんとも思わないんですか? ただ村から出てきただけの少女が、大人の都合で精霊使いの弟子にされて、あげくの果てには無実の罪で牢に入れられ、殺されるかもしれないのに」
フェルナンドは振り向き、非難する目付きでにらむ。
隊は静まり返った。
マリポーザを村から連れてきたのは自分たちだった。山火事の一件でも、護衛として最も近くにいた。事情を誰よりもよく理解しているからこそ、口には出さないが、皆マリポーザの置かれた状況に同情していた。
うつむいた兵士達の顔をフェリペは見渡した。
「お前達、よく聞いてくれ。フェルナンドの言うことはもっともだ。マリポーザを可哀想だと思う気持ちはよくわかる。僕も同じ気持ちだ。
だが、同時に僕には部下のお前たちを守る責任がある。僕たちは護衛の任務中に特別参謀を山火事の件で死なせてしまうという失態を犯しているんだ。これ以上の失態を重ねたら、処分は免れないだろう。
マリポーザが裁判の前に逃亡したことで、立場がまずくなったのはマリポーザだけではない。僕たちもだ。帝都の中では一番長く一緒にいて仲が良かったということで、我々のことをマリポーザを逃がした犯人ではないかと疑っている人がいる。
今、僕たちは微妙な立場に立たされている。下手をしたら君たち自身だけでなく、家族にまで処罰がおよぶかもしれない。そこを肝に銘じてほしい。
それに、ほかの隊がマリポーザを見つけるよりも、僕たちが見つけるほうが安全だ。そうだろう? マリポーザは生かして捕らえるよう命令が下っているが、怪我をさせるなとは言われていない。手荒な連中に見つかって捕らえられるよりは、僕たちが見つけて保護したほうが安全だと思う。
だからいいね? マリポーザを決して見逃さないこと。見つけたら、怪我をさせず丁重に保護、もとい捕捉しよう」
「はい、大尉」
皆の返事が揃った。これで少しは迷いが晴れればいいのだけれど、と、行く先に見えるすっきりとしない空をフェリペはみやった。
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